10.16.2020

[film] Undine (2020)

13日、火曜日の晩、LLFが行われているBFI Southbankで見ました。

今回のLFFで、出かけていって見た最初のシアター上映作品。でも開始が20:45のせいか、映画祭の華やかさは欠片もない。3つのシアターの入り口はそれぞれ別の裏入り口みたいなところで分けられていて入って出るだけ、ロビーでざわざわしたりカフェやバーでわいわいしたりもない。そんなの別になくても、って思ってきたけどなければないでなんかつまんないっていう。

ついこの間見た気がする“Transit” (2018)に続くChristian Petzoldの新作。主役のふたり - Paula Beer & Franz Rogowskiもそのまま。これがかかった今年のベルリン国際映画祭で、Paula BeerはBest Actressを受賞している。

冒頭、Undine (Paula Beer)とJohannes (Jacob Matschenz)がカフェで向かい合って固まっていて、言葉少なく別れを切り出すJohannesに向かって、Undineは泣きながら別れたら死ぬことになるよ、とか言っている。

Undineは歴史学者で、博物館だか市の施設の中で、ベルリンの街の成り立ちとか都市計画とかその歴史について、いくつかのジオラマを参照しながらツアー客相手にガイドをしているのだが、先程の別れ話がショックだったので途切れたり止まったりしている。がんばって説明を終えて隣のカフェで大水槽の前に立ってぼーっとしていると、Christoph (Franz Rogowski)が寄ってきて、さっきの説明がすばらしかったので御礼を言いたくて、という。Undineが険しい顔をしているのでさっさと立ち去ろうとしたとき、突然大水槽のガラスが割れてふたりは水浸しになってその破片でUndineは少し怪我をして。

こうしてUndineとChristophは仲良くなって、Undineの住んでいるベルリンとChristophの働いている少しは離れた田舎の水辺 – 彼はここで潜水士(溶接工事とか)の仕事をしている – を行ったり来たりのつきあいが始まって、Christophは潜水しているときに巨大ナマズを見たり、Undineと一緒に泳いでいるとき、不思議なものを見たり、彼女に潜水士の人形をあげたり。

ある日、Christophが田舎に戻るので駅に向かってふたりで腕を組んで歩いているとき、向こうからJohannesと奥さんが歩いてくるのとすれ違ったのでUndineは振り返り、きっ、って向こうを睨むのだが、その晩UndineはChristophから妙な電話を受けとる。昼間の彼女について、彼らとすれ違ったとき、胸の鼓動が高まっていただろ、って一方的に彼女を責めると電話は切れて、なんかもやもやしたので翌日彼が働く水辺に行ってみると…

Undineという名前は水の精霊 - 『オンディーヌ』 - なので水辺とか水槽とか潜水士とか水に関わる場面が多く出てくるのだが、彼女の皮膚がウロコやヒレに変わったり、歯がぎざぎざになってロブスターを殻ごと齧ったりなにかを食い破ったりすることはないの。変な、不可思議なシーンや現象はところどころ出てくるものの、それらに明確な答えや理由があるわけではなく、Undineの叶わぬ悲恋、とその周辺をゆっくりと回っていく。そういう不可解なところが水のなかに音もなく沈んでいくかんじがなんかいいの。

Undineが静かに水に入っていって飛沫も波紋も立てることなくすうっと水中に消えるシーンがすばらしい。(ゴダールの映画にこんなところなかったかしら?) そしてあのラストも。

とにかくPaula Beerさんと水(含. 涙)の相性がものすごくよいので多少理不尽なことが起こっても変に見えないし、あまりに平々凡々としたChristophの佇まいとか喜んだり狼狽えたりの素ぶりがそこにまた嵌ってクラシックなカップルの像を結ぶ。

上映前にベルリンにいる監督とのQ&Aのビデオが流れて、こないだのヴェネツィア映画祭ではJoanna HoggさんたちとFairy taleと映画についてずっと話していたそうなのだが、これは3部作の最初のパートとなる作品で、ベルリンと水についてで、次の作品はバルト海と火についてのものになる、って。

関係ないけど、監督の背後には『東京物語』のスチールを貼ったパネルが立てかけてあった。


ロンドンでのCovid19の警戒レベルが”Midium”から”High”にあがったって。美術館と映画館が閉まらなければ。それだけ。

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