15日、木曜日の晩、LFFのオンラインで見ました。この日のこの上映がワールドプレミアだったそう。
監督で女優のCaroline Catzさんによる、英国の電子音響 〜 Electronic dance musicのパイオニアとされるDelia Derbyshire (1937–2001)の評伝ドキュメンタリー映画 - 一部実演パートあり(実演パートでは監督自身がDelia Derbyshireの役を演じている)。 監督は2018年に同タイトルの短編(13分)を発表していて、今回はそのフル・バージョンというか完成形というか。
2001年7月3日 - Delia Derbyshireさんが亡くなった日 - Northamptonの家の屋根裏から267本のテープが見つかった ー という出だしに導かれて、彼女の生涯を追う旅が始まる。 Coventryに生まれ、幼い頃の空襲警報の音(とそれがクリアされた時の音)を音の原体験として聞いて育った彼女はケンブリッジで数学と音楽を学んで、どうしても音楽をやりたいとDeccaの門を叩くが、女子は秘書以外は採用していないと鼻であしらわれ、ようやくBBCに見習いのような形で職を得て、そこの音響効果部門として設立されたRadiophonic Workshopに入って、60年代からTVやラジオ番組の効果音響とかを手がけて、その代表が英国人なら誰でも知っている(みたい。よく流れるし)”Doctor Who” (1963-)のテーマ音楽(の音色)を作った人(として認知されたのはずっと後のことだが)として知られる。
誰も聞いたことがない、世界に存在したことがないような音/音色を作る、という使命に燃えつつも現実には仕事の締め切りや制約に追われて職場でぐったり、という日々の姿と、シンセサイザーの登場してきた時代に実験音楽も含めて仲間との間で共同制作や創作を続けつつも”Feminism登場前からのPost-Feminist”として奮闘する姿を、彼女の実際のインタビュー音声や関係者証言、実演ドラマを通して追っていく。 そしてこれらの背後で、彼女の音やテープに残された周波や波形を使って彼女とチャネリングしつつその像を呼びだしていくCosey Fanni Tuttiさん(かっこいい)がいる。
当時のロックのシーンとの関わりだとスタジオにBrian Jonesが来た、とかJimi Hendrixとのことが少し触れられているくらいで、どちらかというとEMS Synthiの登場とか新たな機器やテクノロジーの革新に触れて仲間たちとKaleidophon studioを立ち上げて舞台音楽などにもフィールドを広げていく辺りが音楽ドキュメンタリーとしてはおもしろくて、でもその裏側で彼女は疲弊して70年代の真ん中にぷつりと音楽を止めて田舎の方に引っこんでしまう..
彼女がやろうとしたことを電子音楽やノイズミュージックの歴史 - ここにBBCのような放送局やポピュラーミュージックがどんな役割を果たしたのかも含めて - にきちんと位置付けたり検証したりすることがメインで、他方でそれを正面からやろうとすると、彼女が女性であったが故にぶつかった壁や差別の構図が見えてきてしまう、という近年の歴史検証ドキュメンタリーには定型のあれになって、その辺で映画としてはやや散漫になってしまったかんじなのが残念かも。 実録パートよりも彼女の遺した音像いろいろについて、後世のミュージシャンたちの証言も含めてもっともっと聴きたかった。
それか、Cosey Fanni Tuttiさんにぜんぶ任せて音だけを延々流してもらうだけ、とか。
関係ないけど、わたしがこういう系の音に触れたのはThrobbing Gristleの”Heathen Earth” (1980)あたりが最初だったと思うのだが、これの最初のトラックのぼわーん、ていうのにそっくりな音がこの映画で聞こえてくる。
それにしても最後の方で流れる彼女が60年代に作ったというEDMのプロトみたいなのを聴くとびっくりするよ(もう有名なことだったのかも知れないけど)。そのままクラブでがんがん流してもへっちゃらな強さと洗練があるの。
昭和のにっぽんに生まれた我々の”Doctor Who”的な音ってなんだろうか? やっぱり「ウルトラQ」になるの?
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