6月11日、水曜日の晩、National TheatreのOlivier Theatreで見ました。
この時期(初夏?)は、リバイバルされる劇が多いようで、もうじき”Nye”も再演されるし、Old Vicでは”Girl from the North Country”もかかる。 この劇も初演の2011年以降、National TheatreやOld Vicで再演され、アメリカでも上演され、2015年には映画化もされている(未見)。今回も短期間の再上演だったが、人気のようでいっぱい入っていた。
ミュージカルだが、音楽と歌ががんがんに飛び交ってクライマックスに向けて力強く盛りあげていくタイプのではなく、ステージの奥にいるのもオーケストラではなく、木管とギターと鍵盤と打楽器を中心としたバンドが7名。つぶやくように歌い始めたり声を掛けあって繰り返していくうちに周囲の人たちが別のメロや調子で絡んで広げていくようなスタイル。13名いるキャストは住民の役だけでなく、取材に来た記者とか、いろんな役柄を掛け持ちしている。 原作はAlecky Blythe、スコアと歌詞はAdam Cork、演出はRufus Norris。
始まる前から舞台上 - 町の集会場なようなセットに普段着や部屋着に毛のはえたような服装の人々が寛いだ様子でだらだらとやってきてお茶やお菓子を用意して会合を開こうとしている。
イギリスの東、サフォーク州のイプスイッチのLondon Roadの界隈で、2006年、5人のセックスワーカーが連続して殺された。これにLondon Roadに住む住民たちが自分たちも含めこの地域をなんとか立て直さなきゃ、と立ちあがって自警団を作ったりいろんなケアもしたり奔走して、町は明るさを取り戻した - この実話を元にしていて、劇の登場人物たちには実在のモデルがいて、彼らの台詞もインタビューなどで記録されたものから来ているのだそう。実話ベースといっても事件の詳細、動機に背景、犯人像を追ったりフォーカスしたり、というところは限定的で、ニュースを聞いたりするシーンはあるものの、あくまで住民の目で見て聞こえてくるもの、が軸になっている。
冒頭に開かれる最初の会合では、どこの住民会でもそうであるように、纏まっているようないないような、ひとりひとりが思いつきのような勝手なことを言って微妙な相槌が打たれて、など、なにが合意されたのか否定されたのかわからない、なあなあの空気を音楽はうまくとらえて纏めていて、それが段々にやっぱりこのままじゃいけないよね、ってどこからかでっかいフラワーポットが持ちこまれたあたりから、音楽のアンサンブルも登場人物のアンサンブルも歌の調子も少しづつ変わって力強いうねりを作っていく。
事件が起こったのはたまたまここLondon Roadだったが、どこかで今も起こったっておかしくないことを、警察でも政治家でもない、そこに住む人たちはどう捉え、考えて、よい方向に変えていこうとするのか、したのか。えらいと思ったのは、被害者であるセックスワーカーへの偏見や、台詞として聞こえてくる「移民のせいでは?」のようなところに持っていかず、捜査や犯人捜しは警察の仕事なのでそれはそれ、自分たちがやるべきことは夜が恐くて通りを出歩けなくなってしまったこの町に誰でも来て貰えるような明るさを取り戻すことだ、って、もちろん全員が一枚岩でがっちり進むわけでもないのだが、最後に舞台が上から降りてくる花花で溢れかえるところはやはり感動するし、いいなー、って。
そうやって実際に町を復興させた彼らは偉いけど、でも彼らって自分たちのことでもあるのだ、あるはずなのだ、と思えば思うほど、今のメディアやSNS等に蔓延しているしょうもない島国根性のようなのが嫌で嫌でたまらなくなる。いまのあの国や自治体のトーンだとセックスワーカーも移民も安心安全の対象外、ってそれに全員が簡単に同調してGo、になりそうで。
この劇はすばらしくて大好きになったのだが、そういうことを思ってとても暗く悲しくなってしまった。
6.26.2025
[theatre] London Road
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