6.17.2025

[film] Unfinished Business (1941)

6月13日、金曜日の午後、BFI SouthbankのFilm on Film Festivalで見ました。

まだ書きたいのがいっぱい詰まっているのだが、このフェスで見た作品たちがどれもすばらしかったので、記憶と感動がどっかに失せないうちに先に書いておきたい。

監督は”My Man Godfrey” (1936) - 『襤褸と宝石』 - のGregory La Cava、上映前にGregory La CavaのResearcherの方による紹介があった。邦題は『恋愛十字路』。

アメリカの田舎で結婚式のシンガーなどをしているNancy (Irene Dunne)は妹の結婚式でも歌を歌うのだが、妹からは結婚後も変わらずあたしの面倒を見てね、と言われて、このままではあかん、とNY行きの列車に飛び乗る。

その列車内で、仲間とかわいい娘を引っかけた方が勝ち、の賭けをしていたSteve (Preston Foster)に声を掛けられて彼と簡単に恋におちるのだが、NYに着いたらSteveはあっさり彼女を無視する。

オペラ歌手のオーディションに落ちたNancyは、電話交換手のバイト - 電話に出たところでスポンサーのCMソングを一節歌う – を始めて、そこでSteveの弟で酔っぱらったTommy (Robert Montgomery)と出会って、彼からSteveが結婚することを聞いたNancyはあたまきてTommyと一緒になることにして、でもやがてTommyはNancyが自分ではなくまだSteveを愛していることを知って軍隊に入ってしまう。

好きになっちゃったものはしょうがない、けど相手がいることなので泣いても酔ってもだめなものはだめで、っていう延々おわらない、懲りない、依存症みたいなありよう(Unfinished Business)にどうやって決着をつけるのか。それがずっと妹の面倒を見てきたNancyと、ずっと執事のElmer (Eugene Pallette)に面倒を見られてきたTommyの間でどんなふうに起こるのか、を細やかですばらしいカメラと俳優たちの豊かな表情と動きのなかに描きだす。

恋しちゃったものをどうすることができようか、っていうテーマは”My Man Godfrey”にもあったけど、あれよりもリアルに、恋をどうやって自分のものにするのか、という普遍的なところにさらりと迫っていて、rom-comとしてめちゃくちゃおもしろかった。”My Man Godfrey”より好きかも。


The Student Prince in Old Heidelberg (1927)

↑のに続けて、一番大きいシアターで上映されたサイレント映画。

監督はErnst Lubitsch、邦題は『思ひ出』。
上映前に、BFIでサイレント映画といえば、のBryony Dixon先生と、自分にとってはバイブルである『サイレント映画の黄金時代』の著者Kevin Brownlow先生のお話しがあった – 翻訳本持ってきてサイン貰うべきだった。

ライブの音楽伴奏はなくて、この映画のために音楽を書いたCarl Davisの、彼の指揮によるオーケストラ伴奏が壮麗に流れて、これは2023年に亡くなった彼への追悼上映でもある、と。で、この音楽が襞襞までものすごく微細なよい音で鳴って響いてこれが真ん中のスタンダードサイズの画面にはまると底抜けに気持ちよくなり、こんなに豊かで贅沢なのがあってよいものか、って悶える。

ドイツのどこか架空の国の皇太子Karl Heinrich (Ramon Novarro) - 今だったらTom Holland - が家庭教師のDr.Jüttner (Jean Hersholt) -ベンヤミン似 - と学業のために一緒にハイデルベルクに来て、学生たちと交流して下宿屋の娘Kathi (Norma Shearer)とじりじりやっぱり恋に落ちて、でも王の危篤で首都に戻らざるを得なくなり、Kathiには彼がもう戻ってこないであろうことがわかっていて…

それはもう青春の思ひ出、としか言いようのない甘く切ないアルバムが、ぜんぶ決定版のように一枚一枚めくられていって、めくられたページは元に戻ることはなくて、最後にKarlがハイデルベルクに戻ってKathiと再会するシーンの苦さと辛さなんてもう…

終わってBryonyさんが「ちょっと『ローマの休日』ぽいのよね」と語っていたが確かにそうで、でもあれよか素敵だと思った。

Kathi役のNorma Shearerは、George Cukorの”The Women”(1939)でヒロインを演じていたひと。この頃からすでにほんとにうまいったらない。


Last Summer (1969)

↑のあと、13日の金曜日の最後の1本。
この裏では同じフェスで、Princeの”Under the Cherry Moon” (1986)の上映もあったのだが、散々悩んで、チケットを取りにくそうだったこっちに転んでしまった。

このフェスでの一番の目玉 - 各自それぞれに目玉があるもの - と言われていて、配られる解説のぺら紙もカラーで刷られてなんだか力がこもっていて、イントロで登場したおじさんふたりもこの上映イベントがどれだけすごいことなのかを力説していた。

長いこと2001年にオーストラリアのアーカイブで発見された16mmプリントしか存在しないとされていたのが、BFIのアーカイブを掘ってみたら35mmプリントが2本も出てきた、と。 これはすごいことなんです!って。

監督はFrank Perry、Evan Hunterの原作小説(1968)を監督の妻のEleanor Perryが脚色している。音楽はJohn Simon。Rhoda役のCatherine Burnsはオスカーの助演女優賞にノミネートされている。邦題は『去年の夏』 - 日本でも1970年に公開されているのね… 

NYのLong IslandにあるFire Islandの浜辺で、Dan (Bruce Davison)とPeter (Richard Thomas)という友達同士の青年ふたりが、傷ついたカモメを見つけたSandy (Barbara Hershey)と知り合って仲良くなって、浜辺やそこにある彼女の家で、ひたすら悶々だらだらと日々を過ごし、そこにRhoda (Catherine Burns)というちょっと危なっかしい女の子も加わって、そのままどこに向かっているのか、だれがなにをどこに導いているのか不明の無為の日々を過ごしていって、そして… という、青春の終わり、60年代の終わりを苦めに描いて、後味も苦いまま浜辺に取り残される。 タイトルは「去年の夏」ではなく「最後の夏」だよね。

例えば西海岸の、60年代のドリーミィな夏のかんじは一切なく、甘さも感傷も排した、とてもあの時代とは思えない生々しくひりひりした映像が重ねられていくのはすごい(よくここまで徹底して)と思ったけど、映画としてのめり込めるかというとやや微妙だったかも。 Gregg ArakiやHarmony Korineの源流のひとつ、と言ってよいのかしら。

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