12.28.2024

[film] The Cherry Orchard (1981)

12月21日、土曜日の午後、BFI SouthbankのRichard Eyre特集で見ました。

映画としてではなく、BBCのTV放映用に制作されたもので、だから画質は白っちゃけたビデオ画像のそれ(残念)で、撮影監督のクレジットもない。2時間10分。

原作はチェーホフの最後の戯曲 - 『桜の園』。テレビ用であることを意識したのかどうなのか、冒頭でマダムRanevsky (Judi Dench)が戻ってくる屋敷の様子も桜の園もそれらがどんな姿かたちをしているのか、最後まで映しだされることはない。それらはすべて失われるもの、奪われてしまうものとして彼らの目の奥に、過去の栄華や追憶のなかに、そこにしか存在しない。絶望、は見たくない、認めたくないので、彼ら(追いたてられる側)の目線はいつもそこの、目の先数メートルの辺りを漂っている。

そんな見えない象徴的な - 貨幣や地位と同様の - ものとして、桜の園も屋敷もなにがなんでも手に入れたいと思うLopakhin (Bill Paterson)と理想しか見ようとしない学生Trofimov (Anton Lesser)、その彼に憧れるAnya (Suzanne Burden) など、メインの家系図があり、旧勢力、新勢力、若いもの、老いたもの、などの間にわかりやすい矢印や点線が引かれていくが、例えば善 - 悪のような構図は描けず、旧地主勢力の衰退〜没落に向かう運命を描く、という強いドラマにもなっていない。すべては最後の引越し - 引き払いのシーンと共に彼方に片付けられてしまう。か、切り倒される桜の園とともに…

わらわら沢山いる俳優たちはJudi Denchは勿論、いかにもなそこにいたような存在感で、最後に屋敷に取り残されて冷凍されてしまうかのようなFirs (Paul Curran)まで、全員がはっきりとそこにいて忘れ難い。 あと、小間使いのEpikhodov役でTimothy Spallが出ていた。


Suddenly, Last Summer (1993)

12月23日、日曜日の午後 - Chichesterから戻ってそのまま、BFI Southbankで見ました。 これもRichard Eyreの特集から、BBCの”Performances”というTVシリーズで制作・放映されたもの。なーんでこんな(すごい)の… と思うし、こんなのがお茶の間に流れて見れるのってどんなにか。

原作はTennessee Williamsの戯曲 (1957)。監督Joseph L. Mankiewicz - Elizabeth Taylor - Katharine Hepburn - Montgomery Cliftによる1959年の映画版は見たような見ていないような.. 曖昧。

車椅子と杖のViolet (Maggie Smith)が医師のRob Loweに食虫植物の話をしているのが冒頭で、そこから彼女の亡くなった息子Sebastianの話になる。彼女がどれだけ息子の、その才能を愛おしく思っていたかがやや偏執狂的に語られ、医師は彼女の混乱と喪失感の根にあるものを見て解したり癒したりするために呼ばれたのだということがわかってくる。

やがて、やはり介護のシスターに付き添われて憔悴、というか錯乱した姪でSebastianの従姉妹のCatharine (Natasha Richardson)が現れ、その後ろにはSebastianの遺言に記された金額の一部をどうにかぶんどりたい彼女の母と弟George (Richard E. Grant)が付いていて、死者と狂気に苛まれた人を真ん中に置いた金と欲にまみれた醜い争いが勃発するのだが、口汚ない喧嘩はなんで彼は酷い死に方をしたのか、去年の夏突然に、なにが? という一点に集約されていって、医師から自白剤を注射されたCatharineは..

ホモセクシュアリティが近しい家族の一員の記憶 - それもその最後の記憶に刻まれてしまった時、家族にどんな困惑や痛みをもたらしてしまうものかを息詰まる会話劇の中から浮かびあがらせようとする、というとてもTennessee Williamsな作品。

亡くなられたMaggie Smithのここ10年くらいというと、穏やかで時たま鋭いところを見せる味方のおばあちゃん、のイメージが強かったように思う。ハリポタでも一瞬、学校を守るために凄んだことがあったりしたが、それもこの延長で、でも本作での息子への愛ゆえに錯乱し、とてつもない怒りをぶちまける老母の姿は圧倒的で、Natasha Richardsonもそうだが本当に修羅場に修羅が現れる迫力のすごいこと。

そういうのをただカメラに収めているだけ、になっても十分におもしろいので…. これはこれでよいのか。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。