10.29.2025

[film] The Mastermind (2025)

10月20日、月曜日の晩、Curzon Sohoで見ました。

LFFでプレミアされたばかりで、主演のJosh O'Connorのイントロつき(この晩、彼はBarbicanでも上映後にトークをしていて、そっちの方に行きたかったのだが)。こんなに早く公開されて、トークまで付いてくるのだったら、別に映画祭で見なくても、にはなるよね。

トークは短かったが、Alice Rohrwacherの”La Chimera” (2023)でも美術品泥棒でしたけど? という問いに、自分の考えだけど”La Chimera”の彼は泥棒ではなくて、今度のはふつうにシンプルに泥棒だと思う、とか。

作・監督はKelly Reichardt、撮影は監督とずっと組んでいるChristopher Blauvelt、音楽はRob Mazurek –Chicago UndergroundでTortoiseのJeff Parkerとかと一緒にやっていた人。

Kelly Reighardtの映画、余りそんなイメージはないかもしれないけど、ずっと犯罪とか窃盗 – どす黒い本流の「クライム」というよりやむにやまれずおどおどびくびくしながら実行していくアクションの顛末などを描いていて、“Night Moves” (2013)や“First Cow” (2019)もそうだと思うが、最近のGuardian紙のインタビューによると、彼女の母は潜入捜査官、父は現場捜査官で、両親の離婚後の継父はFBI捜査官で、そういう事象・対象としての犯罪が空気のようにある家庭で育った、のだそう。

1970年のマサチューセッツの郊外で、James Blaine "JB" Mooney (Josh O’Connor)は無職で、妻のTerri (Alana Haim)とふたりの男の子がいて、実家の父(Bill Camp)は裁判官だし母(Hope Davis)もちゃんとしているのに彼だけぱっとしていなくて、でもそんなに苛立ったり困ったりしているかんじはない。

彼は地元の美術館からArthur Doveの抽象画4点を盗むことを計画して下見して、母に嘘をついてお金を借りて仲間を集めて、でも実行の日、ひとりは現れないし、残りのふたりも素人だし、子供たちは学校が休みで面倒を見なければならないし、現場にいっても盗み決行中に小学生が絡んできたり、警備員にも見つかって出る時にひと悶着あるし散々なのだが、でもどうにか盗み出すことに成功する。 ここまでが冒頭30分くらいでさっさかと描かれて、そこにはなんで強盗に踏みきったのか – しかもあんな微妙で半端な抽象画を – の説明も犯罪実行時の高揚も緊張感もまったくないの。すべてが場当たり的でいいかげんで、抜けられたのは運がよかっただけ、みたいな。 そしてそれらについてJB本人も焦りも怒りも後悔もせず、とにかく逃げて、隠して、捕まりさえしなければ(いいや)を淡々とやっていくだけ。

やがて逃げた共犯者が別の強盗をしてあっさり捕まり、JBの名前を言っちゃったので自宅にFBIがくるし(もちろんシラをきる)、ギャングにも名前が知れちゃったので盗んだ絵画も連中に持っていかれて、手ぶらの指名手配された窃盗犯となった彼は美術学校時代の仲間のところに行ったりそこからヒッチハイクで遠くに向かおうとするが結局…

前半の窃盗の場面と同様、その後の逃亡劇もぜんぜんぱっとしない、家族からも友人たちからも追われたから言われたから逃げていくだけの、しょうもない後ろ向きの立ち回りをJosh O’Connorは強い信念も動作も激情も繰りだすことなく、ひょこひょこ渡るように演じていて、そのどこまでも後ろ向きの態度と表情 - 犯罪映画の主人公としてはありえないくらいへっこんだ容姿って、悪に立ち向かうヒーローと同じくらいにすごいと思った。過去の映画だと、やはりJean-Pierre Melvilleの映画に出てくる一筋縄ではいかない、でもどこか魅力的な連中だろうか。

”La Chimera”での彼も疲れてぼろぼろだったが、そんな彼のところに欧州の神の啓示(のようなもの)がやってきた。これに対し、ここにはベトナム戦争後の米国を生きる疲弊と混沌がそのまま垂れ流されていって、神もくそもなく、ただ遠くに消えていくさまがどこか生々しい。

あと、これがアートを中心に置いた営為で、ちっともアートっぽくない構えで動いていく、というところだと監督の前作 - “Showing Up” (2022)でMichelle Williamsが演じたアーティストの姿とも重なる。周辺の雑務とかどうでもいいヒトやコトばかりがあれこれ纏わりついてきて、やりたいことのずっと手前とか周辺をぐるぐる回って出口が見えなくなって塞がっていくことの悲喜劇とか。

Kelly Reighardtの長編映画のここ数年て、男性主人公ものと女性主人公ものが交互に来ている気がして、次は女性ものになるのだろうか。Michelle WilliamsとJosh O’Connorが共演したら、とか。時代劇もよいかも。

あと、主人公の70年代ファッション(by Amy Roth)がなかなか素敵で。”The Mastermind”ブランドとかいって出してみたらよいのに(で、ぜんぜん売れないの)。

そしてさっきO2アリーナでHaimを見て帰ってきた。
この映画の唯一の不満は、ろくでなしの夫をしばきまくるAlana Haimがあまり出てこないこと、なのよね。

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