9月26日、金曜日(公開初日)の晩、BFI IMAXで見ました。
IMAX 70mmのフィルム上映で、北米以外でこのプリントを見れるのはここだけだそうで、後半の車の追っかけっこのところとかめちゃくちゃすごいよ。IMAX 70mmの映像がもたらす驚異、を初めてちゃんと思い知ったかも。
Paul Thomas Anderson (PTA)の新作で、あんまりかっこよいとは思えないLeonardo DiCaprioがおろおろしまくるだけの予告ががんがんかかりまくり、公開週末の全米興行収入では一位になってしまったという…
原作はThomas Pynchonの” Vineland” (1990)(を緩く)、音楽はJonny Greenwood、撮影はMichael Bauman。
Wes Andersonの世界に出てくる変人たちよりはもう少しリアルっぽい変人たち – 特に男はいっつもぜったい変態 - が、2009年から現在までの、16年に渡るアメリカ合衆国と思われる国で機関銃を撃ちまくったりの「バトル」を繰りひろげていくのだが、架空の組織や体制を扱いながらも、その崩れっぷりも含めてとてもPTAぽい。DiCaprioばかりがクローズアップされがちだが、彼はひたすら逃げまくっているだけ、Robert Altman的にぶっこわれた(ていく)集団活劇、として見たほうがよいのかも。 162分、あっという間。
カリフォルニアの移民収容施設に、Perfidia Beverly Hills (Teyana Taylor)とGhetto (Leonardo DiCaprio)のいる極左組織 – French75が乗りこんで拘留されていた移民たちを解放する。その際にPerfidiaは軍のLockjaw (Sean Penn)を縛りあげて辱めて、Lockjawはその快楽にやられてPerfidiaに粘着して彼女に会うようになり、French75周辺の情報を聞きだしてそれを元に組織を壊滅状態に追いこんで、その間にPerfidiaは女の子を出産するが、彼女はその子をずっと恋人だったGhettoに託して消えてしまう。
そこから16年経って、Ghettoは名前をBobに変えて、娘のWilla (Chase Infiniti)と身を潜めて小さな町に暮らしているのだが、白人至上主義の極右秘密結社に勧誘されたLockjawが過去のPerfidiaとの関わりを消すべく(純血主義だから)Willaを捕らえて、French75の壊滅に動きだして(ここに先住民の殺し屋が挟まるとかめちゃくちゃ)。
学校のダンスパーティに向かう寸前にFrench75のDeandra(Regina Hall)に救われたWillaは修道院に匿われて、Bobのところにも追っ手が迫って、空手のSenseiのSergio (Benicio del Toro)に助けられながら一緒に逃げるのだが。
後半は半分らりらりで組織の合言葉も思いだせず、ひとり勝手に錯乱して大騒ぎなのに「トム・クルーズでいけ!」ってSergioに車から放り出されてしまうBobと、修道院にやってきたLockjawとのやり取りのあとに殺し屋に引き渡されたWillaの戦いと、そしてLockjawにも刺客が…
極右に極左、移民コミュニティに修道院に軍に警察、これらがぐちゃぐちゃに入り乱れるOne After Anotherの殺し合いに潰し合いの顛末について70年代を舞台にCoppolaやScorseseが描いてきたギャング映画とも、復讐ファーストのTarantinoのそれともまったく異なる色調とアスペクト比で広げてみせて、それはいまのランドスケープに見事に繋がってしまう。 みんなそれぞれに高慢と偏見と陰謀論で人々をより分けたり分断したりしつつ、誰もが自分はトム・クルーズなんだと思っていて、知らないところで誰かが誰かに簡単に殺されていく – と、そこまで悲惨なトーンではないのだが、そういう腐れて錯綜した(特に白人男たちの)気持ち悪さ、に溢れている。
PTAはこんなふうに何かに憑りつかれて捩れておかしくなってしまった男たちをずっと描いてきたので、これもそのバージョンなのかもしれないし偶然なのかもしれないけど、あまりに今のあれが支配する世界に近いところに来てしまっていて、結果として笑えたかも知れないところで笑えない。それでよいのかも、だけど。 あの極右の白い男たちのつるっとしたゴムの顔の光沢とか、ああいうのってほんとうにいるんだよ。
音楽はピアノがぽんぽんずっと鳴っているかんじなのだが、ところどころの腑抜けモーメントで、あ、Jon Brion?って聞こえるところがあって、後で確かめたらやはりそうだった。変態の世界を優しく覆ってくれるJon Brionの音の毛布。 最後に来るのはTom Petty & The Heartbreakersの”American Girl” 〜 Gil Scott-Heronの”The Revolution Will Not Be Televised”だよ(どちらもこのドラマが動いていた時代に亡くなった闘士である)。こんなの嫌いになれるわけがない。
それにしても、90年代にLeonardo DiCaprioとSean Pennがこんな映画でこんな形でやりあうことになるなんて、誰が想像したであろうか。
そして、男優たちの反対側にいる女優陣は全員がすばらしいったらない。尼さんたちの銃撃戦を見れたらもっとよかったのにな。(そしてPaddingtonはこっちに来るべきだった)
プロモーションのひどさとか上映館数の少なさとか、左翼アレルギーも含めた日本の映画配給のしょうもない幼稚さ、これもまたOne After Anotherの戦いということで。(他人事)
10.01.2025
[film] One Battle After Another (2025)
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