10月5日、日曜日の昼、BFI Southbankで見ました。
公開直後のイベントで上映後に監督Kathryn Bigelow他とのQ&Aがある。
この週末のBFIはRidley Scott一色で、監督本人が来て、彼の代表作いろいろの上映(ほぼ35mmフィルム上映)の前にイントロしたりQ&Aしたりトークしたり、彼のサインを求める人たちでざわざわしていて、自分もこの日の夕方に”Thelma & Louise” (1991)とじじいを見た(そのうち書く)。
脚本はNoah Oppenheimで、監督とふたりでいろいろ練りあげて行ったことが後のトークでわかった。
映画は112分あるが、対象となる出来事は18分間で、この18分を3つのセグメント、いろんな登場人物視点や立場に分けたり引き伸ばして見せる。彼女の得意な突発的なアクションや爆発で人や建物が吹き飛んだり、は今回はない。登場人物たちは、仕事場の端末、スマホの画面、会議室のモニターに向かって苛立ったり怒鳴ったりしている動きが殆どで、明確な敵はいない、見えない – 誰が仕掛けたものなのか明確にはわからない、という点では”The Hurt Locker” (2008)の怖さに近いのかもしれない。
アラスカの米軍基地で発射を確認されていないで飛んでいる大陸間弾道ミサイルが発見され、最初は何かのテストかと思っていたのがどうもそうではなく、シカゴに向かっている本物らしい、ということがわかってくる。ホワイトハウスではOlivia Walker (Rebecca Ferguson)がいつものように出社してオフィスで各担当と繋いだところで、ミサイルの情報が来て、彼女たちも最初はなにかのドリルではないかと疑うのだがそうではなくて、脅威レベルが引き上げられて、アラスカの軍が迎撃に向かうものの失敗して、数分後には間違いなく米国領内に飛んでくることがわかる。
パニックになることを承知で市民に伝えるべきか、報復すべきなのか、するとしたらそのタイミングは、などが渦巻く中、ホワイトハウス関係者にも避難勧告が出て、Oliviaにも家族がいるしどうしよう.. の辛さとどうすることもできないもどかしさが受けとめ難い事実としてのしかかってくる、けどどうしようもない。
続くセグメントでは、USSTRATCOM(アメリカ戦略軍)のAnthony Brody (Tracy Letts)将軍が即時報復すべきかどうかについて大統領のセキュリティアドバイザーのJake Baerington (Gabriel Basso)と衝突して、議論が宙に浮く。ロシア外相は関与を否定し、北朝鮮についてエキスパート(Greta Lee)に聞くと発射できる可能性はある、という。でも確実な情報は得られないまま、で、どうする? に戻る。
最後のパートは、合衆国大統領(Idris Elba)で、女子バスケットボールのイベントに出ていたところを緊急で呼びだされ、こういう有事のアドバイザーであるRobert (Jonah Hauer-King)から分厚いマニュアルをもとに打つべき手について説明されて判断を求められるのだが、決められない。困ってRobertに聞いても、自分は取りうるオプションについて説明するだけですから、と返される(そりゃそうよね)。
事態に直面する職員から最終決定をくだす大統領まで、3つのレイヤーで上に昇っていくものの、限られた時間で判断するには情報が足らなすぎるし、でもそれに伴う犠牲と被害は大きすぎるし、責任の重さだけでなく、みんなそれぞれ愛する家族がいて、という明日にでも十分に起こりうる渦の緊迫を描いて、そうなんだろうな、そうなるよな、しかない。(シナリオ作りにはそれなりの中枢の人たちが参画しているので相当にリアルなものだ、と後のトークで)
だからー、抑止力とか言って核を持って広げるのは簡単だけど、それがもたらす事態って現場レベルに来ると具体的にはこうなるのだよ、って。 あと、“Oppenheimer”(2023)でもそうだったが、核がもたらすリアルな災禍については、この映画でも触れられない。この辺には巧妙な狡さを感じる。実際に起こったことなのに。かつてアメリカが起こしたことなのに。という、結果としては隅から隅までアメリカの前線で戦っている人々を讃える、それだけの映画でしかなくて、ここから核を失くすべき - 失くそう、の議論には行きそうにないのが。
あとそうよね、この映画は美しいくらいの統制と緊張に貫かれているのだが、現実のいまの大統領の下でこれが起こったら一瞬で世界は灰になるのが見える。Tomでもムリ。
映画の”Independence Day” (1996)だったら大統領が戦闘機に乗って突撃にいくし、ここの大統領はIdris Elbaなのでやってくれるか、と思ったがやっぱりそれはなかった。
上映後のQ&AはKathryn Bigelowだけでなく、脚本のNoah Oppenheim、Rebecca Ferguson、 Tracy Letts、Jonah Hauer-King、撮影のBarry Ackroyd、音楽のVolker Bertelmannが並んだ。監督だけだと思っていたのに、Rebecca Fergusonさんまで見れてうれしい。
質問コーナーで印象に残ったのは、ゲティスバーグの戦いを祝うイベントとかリンカーンの像とかが映しだされる場面があって、その意味を問われて、まあ普通の答えだったのだが、Tracy Letts(”Lady Bird” (2017)のパパだった人だよ)が手をあげて、もうひとつある - ここで描かれているようなことが起こったらこんなレガシーなんてなんの意味もなくなる、ということだ。いまのアメリカを見ろ、って。(拍手)
Tracy Lettsさんは、彼の書いた舞台、”Mary Page Marlowe” – 主演Susan SarandonをOld Vicでやっているので見に行く。
あと、撮影のBarry Ackroydの、どこにカメラを置いているのかわからないくらい多くのカメラを置いて撮っていくやり方とか。Ken Loachに学んだそうな。
10.10.2025
[film] A House of Dynamite (2025)
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