10.15.2025

[film] Portrait in Black (1960)

10月2日、木曜日の晩、BFI SouthbankのAnna May Wong特集で見ました。前に書いたシリーズの続き。

邦題は『黒い肖像』。35mmプリントでのフィルム上映。

これがAnna May Wongの生前最後の映画出演作で、彼女の出演作でカラーだったのは、主演デビュー作の”The Toll of the Sea” (1922)とこの最後の作品だけだった、というのは興味深い。

原作はIvan Goff、Ben Robertsによる同名戯曲で、彼らが脚本も書いている。
監督はMichael Gordon、プロデュースはRoss Hunter、撮影のRussell Metty、編集のMilton Carruth、音楽のFrank Skinner、主演のLana Turnerという布陣は、これの前年に彼がプロデュースしたDouglas Sirkの”Imitation of Life”(1959)のをそのまま持ってきている、って。 見比べてみたくなる。

サンフランシスコで裕福な暮らしをしているSheila (Lana Turner)は、海運会社を営む傲慢な寝たきり夫(Lloyd Nolan)の介護をしながら、嫌になって疲れきっていて、そのうち彼の往診にやってくる医師のDavid (Anthony Quinn)と恋におちて、ふたりでうざい夫の殺害を計画して… すべてはうまくいったように見えたのだが、変な手紙が届いたり、運転手や家政婦(Anna May Wong)も何かを知っているようで、面倒そうなやつを消し始めたらいよいよ事態が悪い方にこじれてきて大変になるの。

お話しとしてはつんのめってて間抜けで他愛ないのだが、中心のふたりの何をやってもうまくいかない焦りと苛立ち、浮かびあがる殺意が、端正な社交生活のなかでノワール的に瞬いて膨れあがっていく様がおもしろくて目を離せなかった。Sheilaの意識の外にあった異世界(東洋のそれを含む)からの視線が波状で刺さってきて、その不安が彼女を駆りたてていくの。

Anna May Wongはいつもでっかい猫を抱えていて、それだけで絵になって素敵だった。


Shanghai Express (1932)

9月28日、日曜日の午後に見ました。
Josef von Sternberg監督、Marlene Dietrich主演による問答無用のクラシックなのだが、一番大きいシアターがほぼ埋まっていて、終わったら余裕で大拍手がでて、みんなでおもしろかったねえ、って言いあっている。

わけのわかんないものを大量に積みこんでがたがた走っていく列車に乗りあわせた得体の知れない乗客たちが楽しくて、見ているこちらもそこに乗り合わせてしまったような感覚がくる。 Anna May Wongは、ふつうにシャープでかっこよい。

Dangerous to Know (1938)

10月4日、土曜日の午後に見ました。 35mmフィルム上映。

監督はRobert Florey、原作はEdgar Wallaceの戯曲”On the Spot” (1930)、(共同)脚本をHorace McCoyが書いている。劇のほうはBroadwayで上演されて、Anna May Wongは同じ役で舞台に立ったそうな。見たかったな。

警察にも目をつけられている地元ギャングの親分Recka(Akim Tamiroff)は市長とか銀行を押さえて、やりたい放題ができる闇の王で、うるさそうな次の市長候補だって自殺に見せかけて窓から落としてしまう。そんな彼が社交界のふつうの女性Margaret (Gail Patrick)を好きになって自分のものにしようと彼女の恋人の証券マンを陥れようとしたところでいろいろ失敗して、それらをぜんぶ横で見ながら彼を静かに愛していたMadame Lan Ying (Anna May Wong)が最後に…

非情でわがままで、どこがよいのだかぜんぜんわからない男が自分の知らない、そもそも立ち入るべきではなかった世界にこじ開けて入ろうとしたら破滅して、そんなバカのためにさらに奥の隅の隅でひっそりと犠牲になってしまう彼女がかわいそうすぎて、当時のアジア人女性の位置ってそんなものだったのだろうか、とか。


Daughter of the Dragon (1931)

10月4日、土曜日の夕方、↑のに続けて見ました。 これも35mmフィルム上映。
監督はLloyd Corrigan。 邦題は『龍の娘』。

ロンドンが舞台で、20年前に死んだと考えられていたFu Manchu(Warner Oland – “Shanghai Express”でもアジア人キャラをやっていた)が、実は生きていて義和団事件で殺された家族の復讐に燃えていて、その血を継いだ娘で、エキゾチックダンサーのPrincess Ling Moy (Anna May Wong)は彼の子分から父が生きていることを知らされ、敵の屋敷にいる父を訪ねていって、そこにスコットランドヤードのAh Kee(Sessue Hayakawa)などが絡んでお屋敷の捕り物アクションになっていくの。よくわかんないけど、おもしろそうならいいや、のこてこてB級東洋伝奇アクション。 

早川雪洲がなかなかかっこよいのだが、あんな高いところから落ちても死ななかったのにはちょっと驚いた。

Anna May Wong、これの次に出演したのが“Shanghai Express”で、彼女のキャラクター的には繋がっているような。


Piccadilly (1929)

10月5日、日曜日の午後に見ました。

監督はドイツのE.A. Dupont、原作はArnold Bennettによるサイレントのイギリス映画。

ロンドンのナイトクラブ”Piccadilly Circus”が舞台で、人気踊り子組のMabel (Gilda Gray)とVic (Cyril Ritchard)がいて、でもふたりの人気も陰ってきたところで、経営者のValentine (Jameson Thomas)は地下で皿洗いをしていたShosho(しょーしょー)(Anna May Wong)と出会って、試しに彼女に出て貰ったらこれが当たって、でもそれが次の悲劇を呼ぶことに…  ピカデリーにはこんなナイトクラブがあったんだなー、あったんだろうなー、って。 Charles Laughtonが変な客としていたり、Ray Millandがエキストラでいたり。

Anna May Wongのダンスシーンが有名で、確かにすごくうまい、ということではないのだが、横で伴奏している男も含めて目を離せなくなる不思議な磁力があるの。

上映が始まって30分くらい経ったところで突然火災報知器が鳴って、他のシアターの人たちも全員外に出なければならず、ちょっと集中力を削がれてしまった。


今回のこの特集、フィルム上映やサイレント伴奏だけでなく、イントロやレクチャーが沢山ついて、アメリカ西海岸からも研究者を呼んだり、とても熱が篭っていてよかった。メインストリームとはちょっと違う位置や属性の下に置かれた彼女の出演作品を通して見ていくことで見えてくるものって確かにあるなー、って改めて。

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