5.29.2025

[theatre] My Master Builder

5月22日、木曜日の晩、Wyndham's Theatreで見ました。

Ewan McGregorの17年ぶりのWest End出演となる舞台。
原作はイプセンの”The Master Builder” (1892) - 『棟梁ソルネス』をLila Raicekが脚色して、Michael Grandageが演出したもの。
 
舞台は最初ガラスの骨組みのような構造物がPhilip JohnsonとかRenzo Pianoのそれのように聳えて光が注いで神々しく、それを背に建築家のHenry Solness(Ewan McGregor)が10年前に焼け落ちた礼拝堂を再建する仕事について情熱的に語る - この礼拝堂はまるでDavid Bowieなのだ!- って”Moonage Daydream”がじゃーん、て流れる(…よくわかんない)。
 
現代のNYのハンプトンの彼の自宅 - 背後にビーチがあって明るくてモダン - で、出版社に勤める妻のElena (Kate Fleetwood)がゲストを招いたパーティの準備を進めていて、ゲストにはHenryのライバルに近くなってきた弟子のRagnar (David Ajala)や彼と付き合っているらしいElenaの部下のKaja (Mirren Mack)がいて、Kajaがゲストとして招いたMathilde (Elizabeth Debicki)がやってきて目を合わせるとHenryの様子が変わって冒頭の自信に溢れた姿とは別人のようにおろおろし始める。HenryとMathildeは10年前 - 礼拝堂が焼け落ちて、彼の息子が亡くなった年 - に出会って一瞬で恋におちて、その後は離れてそのままになっていた。
 
ふたりのどちらもはじめは再会にややうろたえて(あとで忘れるわけないだろ.. って言う)、少し落ち着いてから陰でこそこそ会って、それぞれの10年間について語り合い – Mathildeは”Master”っていう小説を書いていたり、Henryは美しくなったMathildeに骨なしのめろめろに溶けて崩れて、もう建築も家庭もどうでもいい、ってなりかけるのだが、ふたりの雰囲気が盛りあがってくるといちいちElenaが割りこんできたり、そうこうしているうちにパーティが始まって、Henryにとっては新プロジェクトのお披露目に近いものだし、Elenaはこの機にHenryと社交界での自分の地位を揺るぎないものにしたい、と張りきっているのだが、MathildeにやられてしまったHenryにはどうでもよいうわの空になっていて、その反対側でMathildeとの間のこともお見通しのElenaは、この機会にすべてまっさらになって頂きましょう、くらいに思っている。
 
みんなから尊敬され、地位も名誉もたっぷりあった建築家がすべてをぶち壊して落っこちて瓦礫に埋もれてしまう話、「棟梁」 - カリスマ建築家とは思えないくらいピュアなHenryと、10年前の喪失も含めて彼をいろんな情念込みで繋ぎ留めて支えてきた妻Elenaと、Henryと同じように空っぽの10年間を過ごしてきたMathildeの三角関係の行方は、真ん中にいたHenryが”Master Builder”とは思えない勢いで踏板を踏み外して間抜けに簡単に落っこちてしまって、最近はそういう事案もいっぱいあるから驚きはしないものの、お話しのバランスとしては、Elenaの孤独と怒りのほうがやや際立っていて、これでよいのかしら? だったかも。
 
Ewan McGregorは、Obi-Wan Kenobiが10年前に堕ちたダークサイドから抜けたと思ったら割と簡単にやられてしまう話、として見れば、それなりに趣き深く、彼も舞台なれしているかんじで素敵で、それよか、それ以上にElizabeth Debickiの、あのキリンみたいにひょろっとした容姿が驚異で、しなやかな珍獣としか言いようがないのだった。足の指までなんであんなに長いの?
 
 
イプセンと言えば、5月8日の木曜日に、Lyric Hammersmith Theatreで”Ghosts” (1881)の半分だけ見たのだった。
 
この日は短期滞在した日本から戻ってきて、ヒースローに16:30に着いたのだが、Paddingtonから先の地下鉄が全然動いてくれなくて、おうちに着いて荷物を置いて、そのまま外に出たらシアターに向かう地下鉄もやはりのろのろ運転で、シアターに駆けこんだのは19:45、15分遅れだから入れてくれたっていいのに、ダメで、休憩後の21時くらいから後半パートだけを見た - 見ないよりは見たほうがよいから。
 
発表当時、テーマの過激さ(性病、自殺、安楽死、など)から発禁処分をくらった劇で、現代のシンプルなリビングとソファを中心に静かに展開していく母と息子の地獄絵は、現代ならそんなに過激ではないように思われた。その週末で終わってしまったので再見できなかったのが残念だった。

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