5.08.2025

[film] Sister Midnight (2024)

4月28日、月曜日の晩、JW3っていう少し北のFinchley Rdにあるカルチャーセンターみたいな施設の映画館で見ました。久々の観客自分ひとりだけ、だった。

6週間英国にいなかった間に新作としてリリースされた作品で、見たいと思っていたやつは戻ってきた時はほぼ終わって配信に移ったりしていて、それなら配信で見ればいいじゃん、なのだが配信て面倒じゃん? なのでこんなふうに地方で上映してくれていたら見にいく。

インド系英国人のKaran Kandhariが作・監督した彼の長編デビュー作で、2024年のカンヌでプレミアされ、BAFTAの最優秀新人英国映画にノミネートされた(でも”Kneecap”に敗れた)、英国 - スェーデン - インド映画。BFIも制作に関わっていて予告がおもしろそうだったの。でも予告から受けたどたばたコメディとは結構違う印象だった。

冒頭、Uma (Radhika Apte)はひとり列車に乗ってインドの田舎を旅してムンバイの町まで来て、そこの長屋の一軒にいた男と式をあげて一緒に暮らし始めるのだが、おそらく親が決めた見合い結婚の相手と思われる夫Gopal (Ashok Pathak)はほぼ喋らず顔も合わせず、TVを見て酒ばかり飲んで朝になると仕事に出て行き、夜は布団の隅で固まってUmaには触ろうともしない - たまにUmaが腕の装身具をじゃらじゃらさせて威嚇しても無反応で - といった辺りがなんのナレーションも会話もなく、アクションのスケッチのみで綴られていく。

隣のおばさんに料理を教えて貰ったりしてもおもしろくないし、Umaは歩いて4時間かかる先にあるビル清掃会社で夜間の清掃のバイトを始めて、そのビルでエレベーターを操作している老人と仲よくなって一緒に帰ったりもするのだが、それで深夜や朝にに帰宅してもGopalは何も言ってこない。

やがて深夜の帰宅中に、道端にいた山羊に寄っていって噛み殺してしまったり、そこらの鳥を捕まえて齧ったりしてている自分に気づき、ああ何をしているんだ? って慄いたりしていると、そのうち彼らはぎこちないストップモーションのアニメ(なかなかかわいい)となって蘇り、彼女の方に寄ってきて遊んでくれたりする。

新婚家庭での虐待(ネグレクト)によってゆっくりとおかしくなっていくUmaの姿を描く、というよかもう少し広い視野に立ち、ご近所界隈を含めた世界全体に向かってこれってどうなってんだふざけんな! って吠える彼女の姿を描いていて、それが女々しく痛々しいトーンではなく、鼻に絆創膏の傷だらけジャンキーのいでたちなので痛快だったりおかしかったり、その仁王立ちする像はIggy Popの”The Idiot” (1977) の収録曲 - “Sister Midnight”に見事に重なってくる。

最後には夫Gopalへの復讐へ、というシンプルなホラーの方には向かわず、我こそは夜の女王なりー、みたいに闇の中に厳かに立ちあがって、それが何? って平然としていて、結果なんかかっこよく見える。印象としてはWes Andersonのすっとぼけたトーンにガレージの錆びた臭いをまぶしたような。

音楽はInterpolのPaul Banksで、挿入曲には、The Bandの”The Weight”とか、Buddy Hollyとか、Motörhead とか、T.Rexの”Mambo Sun”とか、The Stoogesの”Gimme Danger”とか、いろんなブルーズが、インドの田舎の荒んだ景色にうまくはまっていて、よいの。
 

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