5.25.2025

[theatre] The Brightening Air

5月16日、金曜日の晩、Old Vicで見ました。

作・演出はConor McPherson、タイトルはW. B. Yeatsの詩、”The Song of Wandering Aengus”から取られたもの。その一節は 〜

“Who called me by my name and run
And faded through the brightening air”

Chris O’Dowdと昨年このシアターでの”Machinal”ですばらしい演技を見せてくれたRosie Sheehyの共演を見れるのであれば、と。

1981年(という設定の意味は不明)、アイルランドの北西のスライゴの田舎 - カーテンと光を使って農家のリビングの奥行きをうまく表現している - にStephen (Brian Gleeson)とBillie (Rosie Sheehy)が静かに慎ましく暮らしていて、他に元聖職者で盲目の彼らの叔父 Father Pierre (Seán McGinley) と家政婦のElizabeth (Derbhle Crotty)、あとLydia (Hannah Morrish)が入ってきて、ここに離れて暮らしていた能天気で調子良さそうな長兄のDermot (Chris O’Dowd)が若いFreya (Aisling Kearns)を連れてやってくる - というか彼のちょっとやかましい登場がそこに集まっている一家のいろんな事情や関係を明らかにしていく - 例えばLydiaはDermotの別居中の妻だったり、ElizabethとStephenは関係を持っているとか、Billieは隣家の若い農場主 Brendan (Eimhin Fitzgerald Doherty) に気があるとか。

全員がリビングに集まった状態、というより、入れ替わり立ち替わり数人単位でのセッションのような形での個々の会話が家族間で重ねられていく中で、いつまでこの家を、誰がどうやって維持していくのか〜誰が継ぐのか、適切な人がいないのであれば売るしかないのでは? みたいに余り楽しくない相続の話になっていく。 それを仕向けているのは金まわりがよくて家を出たもののなにかやばいことになって戻ってきたらしいDermotで、薄っすらやらなきゃ、と感じてはいたもののまともに向き合ってこなかった面々は、それぞれの形でこれからの人生に向き合って不機嫌になったり、怪しげな聖水にすがったり、てんでばらばらな反応を示して、でもどちらにしても明るくなる兆しのようなものはどこにもない。

おそらく誰もが親族での集まりがあったりした時などに経験しそうな面倒でとっ散らかった光景で、年齢とか長男長女とか子供がいるいない、などによる序列的なあれ - にもよるのだろうが、一族を引き裂くような修羅場とかお先真っ暗な未来、まではいかない、声の大きい奴が大きい声で何かを言って、他の人はまた始まった、って思って、こんなの退散するに限る、って、翌日には忘れる/忘れたいやつ。そういう時にテーブルに並んでいたものとかそこに射している光とか。

フーテンの寅みたいに愛想と調子はよくて、でも絶対責任とらない詐欺師みたいに軽いDermotの演技が絶妙で、チェーホフ的な一族の没落、どん詰まりからうまく逃れている反面、突然目が見えるようになって活力を取り戻してしまう叔父以外は、それぞれに先を見いだしたり思い直したり、その程度で何ひとつ一件落着には向かわないので、これでよいのかな? って少しだけ。始まりと終わりにBillieがガンジスの流れが〜 とか言いだすのもへ? って、なんかよくわかんないし。

リビングにはピアノが一台置いてあって、2幕目の終わりにはBillie = Rosie SheehyがRichard & Linda Thompsonの”A Heart Needs a Home”をぽろぽろ弾き語りして、それがすごくよかった。彼女、Yes (バンド)のTシャツを着ているのだが。

次回のOld Vicは、2017年のリバイバルでConor McPhersonの”Girl from the North Country”がかかるの。楽しみ。


Personal Values


5月14日、水曜日の晩、Hampstead theatreの地下の小さい方のシアターで見ました。

Chloë Lawrence-Taylorの劇作デビューで、演出はLucy Morrison、スタッフも含めてほぼ女性の二人芝居 - 終わりの方で男性が1名 - 約1時間の1幕もの。

客席とステージはほぼ同じ高さで、舞台となるフラットにはよく組み上げた、と思うくらいに本に雑誌、レコードの山とか箱、棚なのか階段なのか不明な段差、どこでも衣類や布切れがあって寝床にも椅子にもテーブルにもなりそうな山とか谷とか。誰かの部屋とか舞台セットとは思えない皮膚に近い親しみが湧いてくるほぼゴミ屋敷のようなところに、そこに暮らすBea (Rosie Cavaliero)と姉のVeda (Holly Atkins)が父の葬儀を終えてどしゃ降りのなか帰ってくる。

ふたりが会うのは久しぶりらしく、いろんな思い出話をして喧嘩腰になったり寝転がったりしながら、なんであなたはこんなゴミの中で暮らしているの? みたいな話になっていって、そして最後に…

あーそうだったのかー、になって、そのぽつんと寂しいかんじは悪くなかったかも。

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