5.04.2025

[theatre] Punch

4月26日、土曜日のマチネをYoung Vicで見ました。
この劇はこの日が最終日でチケットがなかなか取れなかったのだが、直前にどうにか取れた。

実際に起こった事件 - 当時28歳だった救命士見習いのJames Hodgkinsonを殴って殺してしまったJacob Dunneの手記を元に劇作家のJames Grahamが原作を書いて、演出はAdam Penford。JacobとJamesの育ったNottinghamのNottingham Playhouseで初演された舞台がそのまま来たもので、劇場にはJames Hodgkinsonに捧げます、という張り紙が。

19歳のJacob (David Shields)は下町のストリート・コーナー・ソサエティで片親(母親)の元で荒っぽく育って週末はなんかの試合にでも向かうような意気で仲間たちと盛り場に向かう - これはどこでもふつうにありそうなヤング不良の日々で、その日も特に違ったものになるはず… だったのだが。

Jamesの母(Julie Hesmondhalgh)と父(Tony Hirst)は深夜に突然病院から電話を受けて、それは彼が昏睡状態でもう助からないであろう、という連絡で、病院に向かうもののJamesはやはり助からなかった。死因はバーで殴られて昏倒してそのまま、でなぜ?の「?」がずっと周り続ける。

Jacobの方は監視カメラの映像から簡単に彼の「犯行」であることがわかって逮捕されるのだが、彼の方でも大量の?が湧いて止まらない。なんでたった一発のパンチで、自分に殺意なんてあるわけない、そんなつもりはなかった - こんなことになるなんて、等々。

まったく立場も事情も異なる両者の「?」と戸惑いの間にたまたまそこにいただけだったJamesの死は置かれていて、Jamesの両親は怒りと悲しみの、Jacobの方は悲嘆と絶望の縁を彷徨って果ても終わりもなくて、どちらも紹介されたケアのプログラムを通して事件と自分たちを見つめ直し、やがて直接会って話してみてはどうか、という申し出を受ける。

実際にそこに至るまでにものすごく長い時間と逡巡と対話の行き来があったのだと思うが、劇は両者の場面を容赦なく切り替え対比させ重ねていくのと、事件の背景にありそうな、なぜ若者の間で幼少期から暴力が簡単に肯定されてしまうのか? とかJamesはなんでそんな夜遅くまで働かなければならなかったのか? といった社会的な背景や事情にも目を向けて、単なる加害者 vs. 被害者の図に落としてしまおうとはしない。こういうことは昔から起こっていたのかも知れないが、片隅の「問題」ではなく、今ここの、ひとりひとりの社会、コミュニティに根差したなにかに関わるべきことなのではないか、と。

そういう土壌や文化のようなところまで掘りさげてみた上で後半はJamesの両親とJacobが対面する。最初はケアラーが間に入って、互いに会話するどころか目を合わせることすらできず、相手が何を求めているのかもわからない手探りの状態から、彼らはどうやって…

元はJacobの手記なので、多少は彼の目線に寄っているのかも知れないが、この部分のやりとりはちょっと感動的で、周りの客席の人たちはみんなぼろぼろ泣いていた。憎しみからは何も生まれない、とかいう決まり文句から離れたところにぽつん、と置かれたひょっとしたら救い…? と呼びたくなってしまう何かが。

Jacobを演じたDavid Shieldsの一気に走り抜ける集中力、Jamesのママを演じたJulie Hesmondhalghの静かな力のすばらしさも。

NTLのような形で日本でも見られるようにできないかしらー。

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