5月10日、土曜日の昼、BFI Southbankで見ました。
5月のBFIは問答無用のTom Cruiseの大特集で、全出演作の回顧上映があり、BFI IMAXではMIのマラソン上映会があり(ぜったいむり。あたまおかしくなる)、BFIにやって来てトークはあるけどチケットなんて取れるわけないわ、Sight & Sound誌の表紙にはなるわ、BFI IMAXの天辺に登っちゃうわ、どうせあんたは無敵なんだから好きにしてくれ、状態なの。
嫌いな俳優ではないし尊敬しているけどものすごく好き、というわけでもないので、この特集では武器を持たないTomかな、ということでこの”Magnolia”とVanilla Sky (2001)だけチケットを取っている。
上映前のイントロによると、ここで上映されるのは今回の特集のために新たに焼かれた35mmプリントで、ほんとうは6月にここで開催されるFilm on Film Festival用 – SWの”New Hope”の改悪前のオリジナルフィルムが上映されるのもここ – に準備したものだったが、この場でもう上映しちゃうのだ、と。
デジタルでもフィルムでも、スクリーンのサイズも、もうあんまり拘りはなくなって、見れるのであればなんでも、の今日この頃なのだが、ここで見たプリントから立ち上ってくる生々しい質感はちょっと驚くレベルのものだったかも。
この作品はPaul Thomas Andersonが前作”Boogie Nights” (1997)での成功を受けて十分なファンドとなにやってもよい、という自由を貰って、思いきり3時間超えの大作を作ってしまった、というやつ。PTAのなかではこれと次の”Punch-Drunk Love” (2002)が一番好きで、“There Will Be Blood” (2007)以降は、みんなそれぞれにすごいとは思うもののなんかこわい…
人の生死なんて、ほんとになにがどうなるかわかんないもんじゃ… ていうのが昔語りの飛び降りのエピソードと共に語られてから、Aimee Mannの”One”がフルで流れて、曲のエンディングでマグノリアの花のイメージがぐるりと広がると、客席のみんなが溜息をついていた。息をのんでしまう美しさがある。
オムニバスのごった煮で、いろんな人たちのいろんなエピソードがところどころでうねって絡みあってサン・フェルナンド・ヴァレーの土地と気候を形作る。アンサンブル、とはまたちょっと違って、ひとつの歌 -“Wise Up”がキャストたちを巻きこみつつ順に歌われていく、メドレーというか。
いみないくらいおおざっぱに要約すると、警官のJim (John C. Reilly)が町を見回りしていくなかでヤク中のClaudia (Melora Walters)と出会って、彼女の父(Philip Baker Hall)は長寿クイズ番組のホストをしているが病んでいて、そのプロデューサーで高齢のEarl (Jason Robards)も病床にあって長くなくて、Earlの妻のLinda (Julianne Moore)も孤立してぼろぼろで、Earlは介護をしているPhil (Philip Seymour Hoffman)に息子のFrank (Tom Cruise)を探してほしいと頼み、Frankはオトコってさいこうー!っていうやばい系の自己啓発セミナーを主宰していて... こんなふうに全体がマグノリアの花びらを形作っていて、ものすごく悪い人もいないし邪悪な何かにやられているわけでもない、なのに誰もが疲れて傷ついて嫌になってやってらんない、ってどうにか過去から生き延びてきて、でもその先にある分かれ目とか断層とか、ほんの少しのタイミングとかちょっとしたズレに左右されるばかりで、ああもうこんなのだめかも無理かも… ってなったときに天からあれが。ぼたっと落ちるマグノリアの花のように。
最初にこれを見た前世紀末、とにかくびっくりして、あーもうこれはぜったい好きだわ、ってなった。ここには救いも希望も啓示もなんもないし。でも落ちて死ななかったら生きるし。けろけろ。
自分のなかではこれが20世紀末最後の大作で、21世紀の最初の大作は”EUREKA” (2000)なの。
”Boogie Nights”とその前の”Hard Eight” (1996)からのキャストを総動員して、見事なPTA組ができあがっていて、でもここをピークに以降の作品は少しづつばらけて、キャラクターよりヒトの業とか徳のようなものを中心に練られていく印象がある。
どこを切っても見どころだらけなのだが、Tom Cruiseに絡みまくって引っぱりだすPhilip Seymour Hoffmanの粘着(その後の”MI3” (2006)に繋がる)とか、経歴詐称がばれた瞬間のTom Cruiseの表情とか。
あと、見どころ云々以前に、まずはAimee Mannの曲ありきの映画、でもあるの。
John C. ReillyとMelora Waltersの最初のデートのシーンもすごくよくて、彼女が口を開けて顎を「かきっ」って鳴らしてわたしはこれができるの、って言うシーンでは、場内のあちこちでかきんこきんうるさくなって笑った。
終わったらみんなしみじみ拍手していた。なんでだろう? って思いつつもなんか。
5.17.2025
[film] Magnolia (1999)
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。