5月3日、土曜日の夕方、演劇”Here We Are”とThe Poguesのライブの間に、Curzon BloomsburyのDoc-Houseで見ました。
オランダ人の監督Suzanne Raesが英国のOxfordshireの一軒の家を舞台に撮ったドキュメンタリー作品。
野原の真ん中に建つ英国の典型的な昔の邸宅 - Cumnor Placeが建っていて、そこに中年の女性 - Harriet Impeyがやってくる。
この邸宅は60年代に、既に亡くなっているHarrietの母で科学者だったJane Impeyが家にあったポストカード大の絵画 – これが初期フランドル派の画家 - Rogier van der Weyden (1399-1464)の“Saint George and the Dragon”であることがわかって当時の新聞に載る大きなニュースとなった - をワシントンのNational Galleryに売った利益で購入して修理して一家で暮らし、いまは中年になったHarrietを含む彼女の子供たち(男3、女1)は、ここで子供時代を過ごした。そして今は彼らの子達- Janeの孫たちがやってきて遊んだりしている。
彼らの父、作家でAshmolean Museumのアジア美術のキュレーションをやっていたOliver Impeyは2005年に、母Janeは2021年に亡くなり、住む者のいなくなった屋敷を引き払うべく、子供たちがやってきてそこに置いてあるもの - 写真や8mmも含む – を彼らの記憶と共に並べていく。日本の下品なTVだとすぐにお宝探し、とか乗りだしそうだが、そういうトーンではなく、家に置かれ、遺された大量の遺物を掘りだし、そこから祖先の足跡〜両親との思い出、自分たちの幼少期までを巡っていく旅のようなものになっていく。
もとはコロナのロックダウン中にこの邸宅でドキュメンタリーを撮る計画があり、それがJaneの死によって急遽撮影を進める必要が出てきたらしいのだが、中心にあるのはずっとここで暮らしてきた、ついこの間まで日常を送っていた母Janeの手書きのメモや貼ってある写真など、前半部分は彼女の生活の痕跡とそれが絶えてしまったことを悼み慈しむトーンが強く出ている。
後半は、父が収集していたのか放置していたのか、家のあちこちに潜んでいるかのように置かれたDragonの絵や飾り、置物の数々とそれらに囲まれて過ごした子供たちの幼年期を追っていく。 アジアを旅してDragonばかりを集めて家に運んでいた – そこから家の購入に繋がる発見があったわけだが - 父がそうやって遺したものと子供たちが父母と過ごした夏の日の記憶、片付けられ、失われていくものへの想いが父の愛したDragonに凝固し、時間を超えて飛びたっていく様はちょっと感動的だったかも。
これ、遺されたのがDragonだからなかなかかっこよいけど、へなちょこでくたくたのぬいぐるみとかがらくたばかりだったらどうなっただろう? ってちょっとだけ思った。
Blue Road: The Edna O’Brien Story (2024)
5月11日、日曜日の晩、Curzon BloomsburyのDoc-Houseで見ました。
もうじき日本のアイルランド映画祭でもかかるようで、喜ばしい。英国では結構長く上映され続けているドキュメンタリー作品。
93歳になったEdna O’Brienのインタビュー映像 – この数か月後に彼女は亡くなる - を中心に、若い頃のTV出演時の映像とか、他の彼女の記事や発言はJessie Buckleyが力強く声をあてて、家族以外の批評家や所謂「証言者」的なコメントは殆どない。作家本人がよどみなく踏みしめるように語っていく一代記で、作品を読んだことがない人でも、家族も文壇も、全てが保守的で、「らしく」あることを求められる土壌でどんなふうに彼女 = “Girl”が周囲と戦い、道を切り開いていったのか、を鮮やかに切り取ってみせて、その恥じない動じない姿はかっこいい、しかない。
タイトルのBlue Roadは、小説に”Blue Road”と書いた彼女が、そんな青い道なんてあるか、って父親に怒られたエピソードから来ていて、でもその直後、カメラはしれっと青くなっている道(美しいったら!)を映しだしていたりー。
↑の”Where Dragons Live”もそうだったが、イギリス・アイルランドの田舎の映像の美しさと、その背後にある澱んで暗く、でも引き込まれるよくわからない業のようななにか、が浮かびあがってきて、それでもやはり美しくて見つめ直してしまうのだった。
5.16.2025
[film] Where Dragons Live (2024)
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