7.25.2020

[film] Dodsworth (1936)

16日、木曜日の晩、Amazon UKの最近でたSamuel Goldwynシリーズから見ました。

邦題は『孔雀夫人』で、80年代の終わりか90年代頭くらいにはこれのVHSを1万円以上で売ってて、当時はこういうクラシックをかけてくれるシネマヴェーラみたいのもなくて、どうしても見たかったけど諦めた(でも『教授と美女』は諦めきれずに買った)。これが今や£3で..

監督はWilliam Wyler、原作はSinclair Lewisの小説、撮影はRudolph Maté、音楽はAlfred Newman。

アメリカの中西部でSam Dodsworth (Walter Huston)は自分の名前の自動車会社を20年くらい経営して成功していたのだが、それを売って引退して妻のFran (Ruth Chatterton)とヨーロッパへの旅に出ることにする。 Samはそれまで仕事一筋でやってきて、それに引っ張られてきたFranは田舎の社交生活にちょっとうんざりしていて、どちらにとっても楽しみな旅行になるはず。

豪華客船の上で、Samは離婚してイタリアに住んでいるというアメリカ人のEdith (Mary Astor)と出会って、Franはおしゃれ英国人(David Niven)に言い寄られて最初は喜んでいたのだがちょっとしつこいので怖くなって最初の寄港地ロンドンには寄らずにパリに向かうことにする(ロンドン寄ればいいのに)。

パリで社交界に出入りするようになったFranは浮かれはしゃいで知り合った遊び人ふうの社交家Arnold (Paul Lukas)に誘われるままにスイスに行ったりして、他方でSamはふつうの観光地とかを見てれば十分じゃないか、ってふたりの間に溝が出てきて、Franはあなたもうアメリカにお戻りになれば、って言うとSamはわかった、って帰っちゃって、FranはSamからの手紙が来ても燃やして風に散らしちゃうの(有名なシーン。痺れる)。

アメリカに戻ったSamは娘夫婦とか昔馴染みと会ったりするのだが落ち着かなくて、向こうでのFranの挙動を現地の部下に報告させるとヨーロッパに向かい、ふたりを問い詰めたらFranはごめんなさいしたので関係を修復することにする。けどその後にFranはウィーンの若い男爵Kurt (Gregory Gaye)におとされて、彼に求婚されちゃったのでもう無理..  って、Samは離婚に合意する。

離婚協議もあるのでひとりヨーロッパを彷徨うSamはナポリでEdithと再会して仲良くなってふたりで旅に出ようかっていう。他方でFranはKurtの母から、あなたは年を取りすぎているので結婚は認められない、って冷たく言われて、そのまま泣きながらSamに電話して離婚とりやめ、って。Franがアメリカに戻るというのでSamも戻らないわけにはいかない、って告げるとEdithはがっかりして..

結婚して20年くらい経った夫婦が、夫の仕事を中心に回っていた日々をやめて旅に出て、新しい土地で、新しい関係に晒されり刺激されたりした途端に互いが嫌になってきて、ただ嫌になるのも修羅場するのも初めてなので行ったり来たりで悶々した挙句にやっぱり.. というメロドラマで、あんな立場、あんな金持ち貴族、あんな豪華客船、あんな豪遊放浪生活、なにひとつ経験なくても彼らの感情の襞 - 希望、諦め、うんざり、苛立ち、徒労 - などなどが生々しく伝わってくるのがすごい。比べてしまうのはよくないと思うのだが、後に残るかんじは小説を読んだ後のように壁に投げつけられた感情がクラッシュしてべったり残って、そういうのが、どちらかというと見ている我々の内側で起こる。

ふたりの感情以外のところだと、アメリカ人の富豪に対するヨーロッパ人の目、そこにおける年齢やジェンダーへの目線もあって、そういう目でSamやFranを見る。この映画の場合はどうしてもFranの方をみて、孔雀になってしまった夫人、とか思ってしまうのはどうなのか。

結末もそうだけど、ここでの勝者はFamily nameを持つSam - 家庭をほぼ省みずに仕事一筋で財を築いた男で、仕事以外のことはほぼ愚鈍みたいなのにー、対するFranはこれまで本で読んだりしているくらいだったヨーロッパのいろんなことに触れて舞い上がって、でも結局はいろんな男達に捨てられて…

同じ年に作られた”These Three” (1936)を見てこれを見ると、原作があるやつだとしても「William Wylerとミソジニー」でなんか書ける気がする。もう誰かが書いているのかも知れないけど、なんかもう自分はこれ以上は深入りできません手に負えません、て強く線を引いてしまっているような。

この後、アメリカにいられなくなったFranはヨーロッパに向かう途中の客船でEdithと同じように引退した富豪と出会い、っていうのが反復されるのだと思った。 これをロードムーヴィーとしてリメイクしてみたら、とか。

でも、とにかくのめりこんで見てしまうことはたしか。他人の人生なのにな。


英国では今日からお店でのマスク着用が義務化された。別にどこのお店で発生したとかはっきりした根拠があるわけでもないけど。 それにしても日本の夜の街がどうライブハウスがどう.. の報道はどう考えても異常だねえ。よってたかって文化を破壊している、ってわかんないのか。

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