7.14.2020

[film] Lynn + Lucy (2019)

5日、日曜日の晩、Curzon Home Cinemaで見ました。

最近よく見ている気がする女性ふたりのドラマ。監督・脚本のFyzal Boulifaさんはこれが長編デビューとなる。Ken Loachの制作会社 - Sixteen Filmsが一部出資している英国映画。

エセックスのそんなに裕福ではない地域でLynn (Roxanne Scrimshaw)とLucy (Nichola Burley)は学校の頃からの親友で肩に同じタトゥーをしていて、家はお向いで、Lynnは16歳の時に子供ができていろいろあり、その娘はもうティーンになり、負傷した帰還兵の夫は家でごろごろしていて自分がなんとかしなきゃ、と思っている。

青い髪のLucyにはゲームばかりやっている年下の夫がいて、映画の冒頭には彼女の生まれた子供の洗礼式があって、こちらも大変だけどなんとかしないと、の事態。Lynnは地元の美容室でバイトを始めて、そこを経営しているのは高校の時にLucyとふたりで虐めていた同級生だったり気まずいところもあるのだがそんなことも言っていられない。でもLynnは仕事を始めたしLucyは疲れているようだけど子供もできたし、久々にふたりでナイトアウトをして酔っ払って、いろいろあるけどまだまだいけるよね大丈夫だよね、って。

そんなある日突然、家の前に救急車が.. ってLynnのところに電話があって、Lucyの子供が亡くなってしまったらしい。赤子の突然死のようだが遊び人の夫による虐待の可能性があり、小さいコミュニティなのでLucyではないか、って噂が流れて中傷する落書きがされていたり、Lucyはもう疲れきって目も虚ろで、Lynnはなんとかしてあげたい、と思うのだが娘の証言を聞いて..

貧困があり、ムラ社会があり、夫婦間の疲弊があり、育児鬱があり、こういう縛りの沼でかつての「友情」はどんなふうに人を動かしたり殺したりするのか、或いはそんなのはなんの役にも立たずにどっかに行ってしまうものなのか。

ふたりがふたりでいるだけで最強だったあの頃は遠い昔、それはもうふたりの記憶の中にしかなくて、いまの現実はまずはそれぞれの(自分の)家族が来て、生活のための仕事が来て、Lucyの苦しみや感情はそういう柵の隙間から辛うじて見えるだけで、その像は歪んでしまっているかも知れないのに確かめてみる余裕も余力もない。 というのが主にLynnの目線 – そこには警察もメディアも病院もSNSも入ってこない -  触れてくるのは職場と近所と家族のみ - で省略されたりジャンプしたりしつつ語られて、彼女の抱える葛藤も苦しみもLucyの元に届く前にどこかに流されてしまう。

Lynn自身がなんらかの意図や確信をもってそう変わっていったのではないし、それはおそらくLucyの場合も同様なのでその救いのなさが怖くて、貧困や余裕のなさがもたらす分断の(ひとによるし場合にもよるけど)最悪のケースはこんなところにこんなふうに現れる、のかも知れない。

Ken Loachの“Sorry We Missed You” (2019)の、あの家族に起こったことと単純に結び付けてはいけないと思いつつ、とても似た風景に見えてしまう。人を巻きこんで萎縮させすり潰していく当事者不在のシステム – “We” – がそこにあるというホラー。

映画のポスターに並んでいるふたりの像は姉妹のようによく似ていてLucyの青い髪がなければどちらがどちらかわからないくらい。タイトルが”Lynn & Lucy”ではなく、”Lynn + Lucy”であること、主人公ふたりの間にあるのが記号なのは意味があるのではないか。

小さいし明るい映画ではないけど、日本でも公開されてほしい。同じように苦しんでいる人はきっといるはずだから。

いまはCovid-19の対応でどこもいっぱいいっぱいの中、こういう昔からある問題が現実にどうなっているのか気になる。 Covid-19下で家族やコミュニティはどうなっていったのか、をテーマにしたドラマはこれから山ほど作られていくのだろうけど。

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