7月12日、土曜日のマチネをDonmar Warehouseで見ました。
原作は1964年、ブルックリン生まれでピュリッツァー賞を2回受賞しているLynn Nottageの2003年に初演された戯曲、演出はLynette Linton。
舞台は粗末なアパートの一室、真ん中に古いミシン、机、衣装箱などが雑然と置いてあり、奥には舞台となった20世紀初頭に撮られたと思われる黒人女性の擦り切れた写真が貼ってある。
1905年のNYで黒人のEster (Samira Wiley)は注文を受けてコルセット等を作ったりするお針子/職人として独りで住んで慎ましく暮らしていて、白人のお金持ち婦人Mrs Van Buren (Claudia Jolly)から威勢のいい娼婦のMayme (Faith Omole)から、ちょっとやかましい家主のMrs Dickson (Nicola Hughes)まで、いろんな人たちが出入りしていて、界隈の噂話に花を咲かせたりグチったり歌ったりダンスしたり。あと、スコットランドのウールとか日本の絹とか珍しい布地を探してきてくれたり売ってくれたりするユダヤ人の生地屋、MrMarks (Alex Waldmann)とはちょっとよいかんじなのだが、ふたりとも一緒になれないことはお互いにわかっている。
いまの仕事が充実しているので結婚は諦めていたのだが、パナマ運河の現場で働いているGeorge (KadiffKirwan)からちょっと詩的で素敵な手紙が届くようになり、読み書きができないEsterは頼んで読んでもらったり返事をしてもらったりしているうち、彼からの手紙は情熱的なものになっていって、やがて結婚しないか、と書いてくる。 会ったこともないのに、なのだが、この先自分のこの界隈でそういう出会いがあるとは思えないので、彼女はその話しを受けてGeorgeがNYにやってくる – ところまでが第一幕。
次の幕はふたりの結婚式から始まり、近所の友人たちがお祝いにきて、質素だけどふたりで写真を撮って、初夜を過ごして、でもそこまでで、Georgeは(やっぱり...)ごくつぶしのDV野郎で、お金をせびって夜はどこかに出かけてなにをしているかわかんなくて、Esterが自分のお店を持つために細々と貯めていたお金にも手を出すようになったり、彼女が作った服を持ちだして金に換えていることがわかったり。 あんなすばらしい手紙をくれたのに、というとあれは金を払って書いてもらったのだ、と。(なんとなく日本の戦後にもあったお話しのような)
最後にふたりの関係がどうなる、というところまでは描かれないのだが、彼女の狭いアトリエ – そこでいろんな糸と布地を編んだり縫ったり重ねたりを気が遠くなるくらい繰り返すのと同じように、いろんな人たちとのいろんな昼と夜があり、喋り、歌い、踊り、酔っ払い、喧嘩して、泣いて、現れては消えていった - そんな宇宙のような時間と空間がここには、ここだけでなく世界中のあらゆるところにあったのだ、ということを柔らかい光のなか、一枚のモノクロ写真の向こう側に浮かびあがらせる。その力技 – としか言いようがない - はすばらしく、演劇の可能性のひとつってこういうのよね、と改めて。
このお話しは、Lynn Nottageが裁縫職人だった曾祖母の写真(開演前、奥に貼ってあった写真がそれ?)を見つけて、彼女のお話を書いてみよう、と思ったところから始まったのだそうで、たぶんそうして縫って広げていく作業を通してEsterの仕事と自身の創作を重ね合わせていったところもあるのではないか、とか。
Ester役のSamira Wileyは最初は小さくて華奢な印象があったのだが、とんでもなくパワフルで狙い撃ちしてくる圧倒さがあった。 Off-Broadwayでの上演時はViola DavisがEster役をやったりしていたのね。
7.19.2025
[theatre] Intimate Apparel
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