7.22.2025

[theatre] The Fifth Step

7月15日、火曜日の晩、@sohoplace(という新しめのシアター)で見ました。

原作はベルファストのDavid Irelandの戯曲、演出はグラスゴーのFinn den Hertog、昨年のエディンバラ国際フェスティバルで初演されたJack LowdenとMartin Freeman(初演時はSean Gilderだった)による二人芝居。 休憩なしの90分。すごくおもしろかった。

舞台は四方の客席から見下ろすかたちで四角いリングのようにあって、椅子とか飲み物台が適当に置いてある。

Luka (Jack Lowden)はAlcoholics Anonymous(AA - 1930年代のアメリカで始まったアルコール依存症患者の相互援助/自助組織)に入って、アルコール依存症から抜けたいと思っている。AAには依存症から抜けるための12のステップがあって、タイトルはこの5つめまでのこと、5th Stepは”Admit Your Wrongdoings”というもので - この先のステップはそれを認めた上で神に懺悔したりとか - から来ている(原作者のDavid Ireland自身がAAに通った経験を元にしているそう)。 劇はLukaがJames (Martin Freeman)のところに自分のスポンサー(身元引受人)になってほしい、と頼みにくるところからはじまる。

Lukaはパーカーにジーンズのラフな労働者の格好で、Jamesはスラックスにジャケットのビジネスカジュアルで、救いを求めている迷える子羊であるLukaに成功者として助言したり説き伏せたり導いたりする立場で、ふたりが舞台上で立ち位置を変え、立ったり座ったりしながら対話を重ねていくのだが、Lukaのあまりに天然、というかJamesからすればナイーブだったりぶっ飛んでいたりする彼の問いや迷いに、当惑しつつ唖然としたりしつつ - スクリーンで見るMartin Freemanのあの頭を振ったり首を傾げたりする姿そのままに - 「対応」していく。

驚くべきはJack Lowdenの演技のすばらしさで、少し背を丸めて、ぼそぼそと朴訥な熊のように語り、頭を抱え、問いに対して真面目に考えては返し、それなのにやはり突然凶暴になる熊の殺気を漂わせていて目を離すことができない。この調子でペースを崩さずにスパーリングのような対話 - 身の回りのことから日常習慣までいろいろ - を繰り返していくなかで、指導者と指導される者、救いと教えを乞う者とそれを与える者のトーンが微妙に変化していって、支配と服従のそれに変わり、その関係になった途端に暴力的な何かが入りこみ、暴力は別のかたちで人を縛り、規定しようとする。 と、それが力の関係になるのであれば、また別の暴力的な何かが。変わりやすい天気よりもスリリングな今何を言った?何が起こった?の連続劇。

ふたりともアルコール依存症の過去があって、だからアルコールは… という話では勿論なくて、こういう形の主従関係 – ではないはずだったのに - がいかに脆く危うく当てにならないもので、その行方が見えない、会話ひとつ、動作ひとつで変わってしまう壊れモノなのかを克明に示して、しかもそれは本質的なこと – この場合はLukaの依存症を断つこと – とはそんなに関係ないところにあったり、という不条理な、変なコミュニケーションのありようを明らかにして、でもこういうのってあるよね。 片方が不可避的に脆弱な何かを抱えているような、教室での先生と生徒の関係とか、宗教のとか、殆どがこんなふうになりうるのではないか、とか。

ただそれよりなによりJack LowdenとMartin Freemanのふたりのすごさ、おもしろさに尽きる。 National Theatre Liveでもやるみたいなので、見られる時がきたら見てほしい。

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