7月17日、木曜日の晩、Harold Pinter Theatreで見ました。
昨年、Royal Court theatreで行われたこれのプレ公演はチケットがぜんぜん取れなくて泣いて、West Endに来てやっと見れる!ってなったらチケット代が高すぎて泣いた。
原作はMark Rosenblatt – これが劇作デビューだそう、演出はNicholas Hytner、主演はJohn Lithgowで、児童文学作家Roald Dahl (1916-1990)の晩年のある出来事 – 主要な事実関係などは実話 - を描いている。
1983年、新居に引っ越したばかり - 舞台上はところどころシートが張られたり剥きだしになったりハシゴや脚立がある、ややとっちらかったリビング – でRoald Dahl (John Lithgow)が間もなく2番目の妻となるFelicity (Rachael Stirling)と一緒にいつものようなやりとり – ひどい腰痛、Quentin Blakeの挿絵に対する文句、いつまでも片付かなくて勝手のよくない新居、一時的にでも近所のコテージには行きたくない、等々 - をしつつ、いつも近くにいる担当編集者のTom Maschler (Elliot Levey) - 彼も実在した人物 - がいて、そこに米国の出版社からエージェントの女性Jessie Stone (Aya Cash) がやってくる。
オーストラリア人作家のTony Cliftonと写真家のCatherine Leroyがレバノン戦争でのイスラエル軍による西ベイルートの包囲を描いた著作”God Cried” (1982)について、DahlはLiterary Review誌に”Not A Chivalrous Affair”と題する書評を掲載する。そこでDahlは激烈なユダヤ人批判 - 劇中では反ユダヤではなく、反イスラエルだ、と何度も言っているが – を展開して当時のメディアから激しく非難されていた。
(当時当該の書評は、サブスクライブすればWebでも読める。あと、Roald Dahlの日本語版のWikiでは、この件に関する記載がごっそり抜けている)
JessieはDahlの本の長年のファンだと言い、自分の子供も喜んで読んでいるので、後でサインを、とお願いして、Dahlも喜んで、と和やかな雰囲気になるのだが、ユダヤ系アメリカ人である彼女がやってきた本当の目的が本件について彼からの公式な謝罪を求めることだと知ると態度を反転・硬化させ、頑迷な老人に変貌する。
ゲストを迎えた穏やかな午後のリビングになるはずが、議論の口火が切られてDahlの不機嫌と癇癪が雪だるまになって止まらなくなり、Jessieがたまらず泣きだして出て行ってしまうまでが第一幕、リングサイドで少し休んで、少しは落ち着いたかと思いきや第二幕でも議論は止まらない – どころか激しさを増して収拾がつかなくなっていく。彼は求めに応じて謝罪をするのかしないのか。
文壇の、児童文学の巨人として既に十分に名の知られたDahlと、彼の書評が招いた炎上と、それを鎮火すべく(しないと売上にひびくから)やってきたアメリカ人女性と、ずっと彼の傍にいる新妻と編集者と、彼らの間の会話劇なのだが、ここには今の世界のすべてがある、と言ってよいくらいにいろんなものがぶちこまれている。レバノン戦争でのイスラエル軍の動きといった政治情勢の「正しさ」を巡る見解、この議題が必然的に孕んでしまう歴史的なユダヤ人への偏見、イスラム圏への偏見、だけでなく、そこには老人の意固地さ我慢ならなさや、女性に対する偏見、地位を利用した高慢さ、そもそものひねくれ性に絶対頭は下げない認めない基本モード等、スケールの違いはあれど、「偉い」老人を中心とした困った諍いは、こんにち誰もが至るところで見たり巻きこまれたりしているのではないか。
そしてそんな老人を演じるJohn Lithgowのすばらしいこと。スクリーンでも見ることのできる、彼の頑迷さの裏に見える弱さ、爆竹のような癇癪、お茶目なところ、涙目、強がり、痛がり、姑息さ、等がフルでぶちまけられていて、Dahlもそうだけど、この人も十分にGiantだよなー、って。
この劇は2024年に書かれたもので、ここでDahlが譲らない主張 - イスラエル軍は子供たちを殺しているじゃないか! ははっきりと今の我々に向けて放たれている。この劇でのDahlの主張の、あの当時における正当性については慎重に見る必要があると思うが、今だったらどう見えるだろうか?という問いが。わたしは、今のイスラエルははっきりと間違っているし、狂っている、と改めて。何度でも。
7.30.2025
[theatre] Giant
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