6月30日、月曜日の晩、Duke of York’s theatreで見ました。
90年代に出てきたウェールズのバンド – Stereophonics、の話ではなく、オフブロードウェイで2023年に初演され、2024年にブロードウェイに行って、その年のトニー賞でBest Playを含む5部門を受賞した演劇のWest End版。メインキャスト7名のうち、ブロードウェイ版から3名はそのまま来て、4名がWest End用にUKでキャスティングされている。
原作はDavid Adjmi - 2013年からこの舞台をどうやって作りあげていったのかについては、Guardian紙に記事がある。機内のラジオで聞いたLed Zeppelinの”Babe I’m Gonna Leave You”が起点だって。演出はDaniel Aukin。
ミュージカルではないが、バンドと彼らが作っていく音楽が中心的な役割を占めて、歌詞と音楽は元Arcade FireのWill Butlerが書いて、俳優たちが(吹き替えではなく)ライブで楽器を演奏して歌っていく。休憩込みで3時間15分。
ステージ奥はガラス張りのレコーディング用のブースになっていて、手前にはミキサーやコンソールの機材があり、エンジニアたちはこちらに背を向けるかたち。両脇には休憩用のソファとかがあってタバコとかドラッグとかケンカとか。エンジニアの卓でレコーディングブースの音はコントロールできて、ブース内の音を消すこともできるし、オフにしろ、って指示された音をこっそり盗み聞きしたりもできる。
1976年、カリフォルニアのサウサリート(←いいところだよ)のスタジオで、最後までバンド名が明らかにされないブリティッシュ-アメリカンの5人組バンドが2ndアルバムのレコーディングをしようとしている。エンジニアは(まだプロデューサーに昇格していない)Grover (Eli Gelb)とCharlie (Andrew R. Butler)で、リーダーでドラムスのSimon (Chris Stack)は妻子がイギリスにいて、薬とアルコールでよれよれのベースのReg (Zachary Hart)はキーボード/ヴォーカルのHolly (Nia Towle)と夫婦なのだが、Regがずっと酔っ払いのよれよれすぎてどうしようもなくて、作曲をして音楽の中心を担うギター/ヴォーカルのPeter (Jack Riddiford)とヴォーカル/タンバリンのDiana (Lucy Karczewski) は恋人同士なのだがいつ別れてもおかしくない緊張関係のなかにある。
こういう状況でレコーディングの試行錯誤を重ねていくバンドの1年間(計4幕)を、バンド内のヒトの緊張関係や内紛状態を通して描くというより、何十回テイクを重ねても終わらない楽曲のレコーディングを通して、ドラムスの音がよくないとか、ドラムスのクリックを使う使わないとか、ベースラインが気にくわないとか、ヴォーカルのキーをもうちょっととか、きわめて具体的なところで見解の相違や不平不満がでて、それが日々の夫婦関係、恋人関係にも影響を及ぼし、バンドそのものの存続もどうしよう、になり、でもやっぱり反省したりバンドってよいかも、になったり。 最近のはどうだか知らぬが、ロックを聴いて、そのアーティストを好きになってインタビュー記事などを読むと、レコーディングにまつわるこういった目線の違いや痴話喧嘩みたいのはいくらでも転がっていたので、そうなんだろうなー、くらい。
リハーサル~本録りまでの、演技(演奏)も含めて実際の音として出して、(台本上の)最終テイクでばしっと決めるのって結構大変ではないか、と思ったのだが、ライブの音としてはちゃんと出て鳴っていて感心した。
PeterがどうしてもDianaに「指導」をしようとしてDianaが構うな触るな、って苛立って反発するシーン、その緊張のありようは↓の”Elephant”のそれを思い起こさせた。女性の声やニュアンスをどうにかできる/したい、という目線で迫ってくる男性の傲慢と無神経。その延長に、バンドであることの意味とは?もやってくる。自分の思った通りの音にしたいのならソロでやるのが一番だが、そうしないでいる理由はなに? と。そしてバンドの目指すのが「成功」であるとしたら、それってなに? なにをもたらすものなの? だから我慢しているの? など。
緊張~解放・発散を繰り返す小集団の密室劇がブースとコンソールで層になっている - MonoではなくStereoの濃さ、おもしろさは確かにあって3時間あっという間なのだが、プロデビューをしているバンドなのだから、影響を及ぼそうとしたり口を挟んできたりするのは、この7人の間だけですむわけがないとは思って、でもそこまで覆いきれないのはしょうがないのか。
音の感触、重心は70年代のバンドぽいが、映画”Almost Famous” (2000)で鳴っていた70年代の音ほどではないかも。バンドにモデルはいないようだが、構成とかカップルがいたとか、思い起こしたのはやはりFleetwood Macあたりかも。でもこのスタイルでバンドの、レコードの制作過程を追うのだったら、パンク初期のChris Thomasがプロデューサーに入った時のSex PistolsとかNick Loweがプロデューサーに入った時のThe Damnedとかのがおもしろくて痛快なものになったのではないか、とか。
7.05.2025
[theatre] Stereophonic
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