7.11.2025

[theatre] Girl From the North Country

7月3日、木曜日の晩、Old Vicで見ました。

2017年、ここで初演された後Broadwayまで行った、全てBob Dylanの曲を使ったミュージカルで、作・演出はConor McPherson。

大恐慌時代のミネソタ(Dylanの生まれた州)の田舎町に大きなゲストハウスがあって、そこの暗めで広いラウンジの左手にはアップライトピアノ、右手には簡素なドラムセットがあって、そこに楽器を抱えたバンドが四方からふらーっと寄ってきて適当に音を鳴らし始めて気がつけば曲がうねっている。楽器はほぼアコースティック中心 - フィドルとかハーモニカとか - で専任のミュージシャンは4人、メインキャストも歌ったり楽器を弾いたりするので、ステージ全体で歌ってダンスができてはねてまわって、コーラスは厚め - ゴスペルのようだったり、ちょっと聞いただけではBob Dylanの曲とは思えない。もちろん、Dylanの曲であることを意識して聞く必要はなく、そもそも彼の曲ってこんなにも多様性に満ちた豊かなものだったのだ、と改めて思わされるのと、ここは賛否があるところかもしれないが、音楽がドラマの進行に寄り添って、場を盛りあげたり怒りや悲痛感を煽ったりというふつうのミュージカルの役割を担っていない。もちろん場面の情景や雰囲気にリンクはしているものの、Dylanの曲・歌はただそこに流れてくるだけでその場の空気や気配や面影のようなものを作りあげてしまう。

ゲストハウスを経営しているのはLaines家で、家長のNick (Colin Connor)がいて、ちょっと壊れていて危なっかしいが歌がはいるとサングラスしてかっこよくなるElizabeth (Katie Brayben) 、彼らの息子で作家志望のGene (Colin Bates)、彼と別れようとしているKatherine (Lydia White)がいて、養女のMarianne (Justina Kehinde)は妊娠している。

その家 - というよりただ屋根や敷居があるだけの囲い、のようなところに逃亡中の男や(大恐慌だけど気にしない)富豪、牧師、医師など、いろんな職業や境遇の人たちが現れて、その都度広がったり狭まったりするLaines家の誰かに絡んだり言い寄ったりどつきどつかれ、音楽に合わせて歌ったり踊ったり隠れたり逃げたり消えたりの寸劇を繰り返して最後にはLaines家もどこかに風のようにいなくなってしまう。”Girl from the North Country”もそんなふうにどこかから現れて消えていったのか - そうやってもう遠くにいってしまった人々や場所についての舞台で、ドラマの展開に涙したり拳を握ったり、登場人物たちに思い入れたりするような劇ではない。時折背景に映し出される森と湖のどこかの情景、Dylanのカバーバンドがジュークボックスのように彼の曲を演奏していくなかに現れたり消えたり浮かんだりしていく家族や人々、その愛や喜びや怒りを映しだし、これこそがDylanがその音楽を通して歌い描こうとした世界まるごとなのだな、ということに気づかされる。なんでそういうことをするのか? なんて聞かないこと。

演奏されるDylanの曲は23曲、年代もアルバムもばらばらで、”Sign on the Window” (1970)から始まって”Pressing On” (1980)で終わる。”I Want You” (1966)や”Like a Rolling Stone” (1965)や”Hurricane” (1976)や”All Along the Watchtower” (1967)といった有名なのもあるし、タイトルの”Girl from the North Country” (1963)ももちろん。Dylanの曲と詞の世界をよく知っていればこの場面でこの曲、の意味や理由もより深く理解できるに違いないが、そうでなくても十分に楽しめる。というか、ここまで年代もテーマもばらばらのジュークボックスをやってもある時代、そこに生きていた人々の像を浮かびあがらせてしまう劇構成の巧さと彼の音楽の普遍性に改めてびっくりして終わる。彼のライブはずっとひとりでそれをやっているわけだが。


Wilko - Love and Death and Rock “N” Roll

7月4日、金曜日の晩、Prince Charles Cinemaの隣にあるLeicester Square Theatreで見ました。

Wilko Johnson (1947 - 2022)の評伝ドラマで、でもWilkoのギターなんて誰がやったって弾けるわけないので、見ないでいいや、と思っていたら、最初サザークの方の小劇場でやっていたのがこちらに来て、日替わりでゲストが出る、と。そのゲストがWreckless EricとかJohn Cooper ClarkeとかBob Geldof とかBilly BraggとかChris Diffordとか、なんとも言えない人たちなので、しょうがないか.. (なにが?)って見に行った。

彼が末期ガンの宣告を受けるところから入って生涯を回顧していく内容で、妻Ireneとの出会いからLee Brilleauxと出会ってDr. Feelgoodからソロ活動から、日本に行って感動した話から、”Game of Thrones”出演 - 彼のキャリアのなかでこれは相当大きかったのだな、と - まで、いろいろ。ギターを抱えてバンドで演奏するシーンもあるのだが、やはりやや残念だったかも。

劇が終わった後で、Wilkoの息子でやはりギタリストのSimon JohnsonとNorman Watt-Roy先生がこの日のゲストとして登場して、”She Does It Right”などを演奏した。Norman先生はお元気そうでよかった。

Wilkoのライブを初めてみたのは渋谷のLive Innというもう消えてしまったライブハウスで、それはそれはすばらしかったので、彼が来日するたびに - Ian Dury and the Blockheadsで来た時もDr. Feelgoodと来た時も - 通ったものだったが、ほんとうにぜんぶ遠い昔になってしまったことだなあ、と。

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