7.07.2025

[film] 花樣年華 (2000)

6月29日、日曜日の昼、BFI Southbankで見ました。

公開25周年を記念した”In the Mood for Love 25th Anniversary Edition”として、6月27日からお祭りのようなリバイバルが始まって、まだ上映されている。Sight and Sound誌の5月号の表紙&特集がこの映画だったのは、そういうことだったのか。

2022年のデジタル・リマスター版の時のリバイバル - 新宿で見た – から改めて4Kリストアされて、色の落ち着きというか濃度・質感はこっちの方がよくなった気がするのと、9分の未公開シーンが追加されている。当初、撮影されたものの使われなかった二人のセックスシーンが加わるのでは、という話もあったがそれはなく、どこが追加されたんだろーあそこかな?くらいのもの。Sight and Sound誌の特集に掲載されたWong Kar-waiのインタビューを読むと、この作品の成り立ちやテーマのありようからして、細かなところで前にでたり後ろに隠したり、ずっと続いていく追加編集はあってもよいのかも、と思わせるし、見る側にしても、最初に見た時、前回見た時、今回見た時で印象は刻々と変わっていって、今度のが一番よかった – よく見渡せて湿気等が目に張りつく気がした。それもまた – In the mood for Love, ということか。

そもそもは1960年代の香港を舞台に、炊飯器の登場とそれが家庭内の女性たちに与えたインパクト、解放感に焦点を当てた作品を作ろうとして、そこにRaoul Walshによるミュージカルコメディ”Every Night at Eight” (1935)のために書かれた曲"I'm in the Mood for Love"を1999年にBryan Ferryがカバーしたものからタイトルが取られて、そもそもはふんわりとした食べ物の話が真ん中に来るはずだった。

配偶者が出張によって長期間不在となり自分で料理をつくって食卓を囲んだりする必要がなくなった彼らはポットに麺を入れてもらったのをテイクアウトすればよくなったし、日本から炊飯器も来たので、食事は自分で作らなくなって、そういえば隣人も配偶者が不在で狭い廊下ですれ違う – なにやっているのか興味ないしどうでもいいけど、でも向こうも同様のことを思っているのだとしたら... というすれ違いが毎晩のようにMrs Chan (Maggie Cheung)とMr Chow (Tony Leung)の間で繰り返され、はじめはMrs Chanの勤め先の上司の動向と同じように「その」匂いみたいのを感じるくらいでどうでもよかったのだが、ひとりの食事の時間が続いたり同じように雨に降られたりが繰り返されているうちに、どこからか(毎度)In the Mood for … のリフレインが。

カメラはいつまでもふたりの物理的な距離を測れる側面からの位置(時折変な動き)を保って、それぞれの手の動きは追うけど正面から見つめ合う切り返しにはいかなくて、その距離を保とう守ろうとすればするほど、ふたりのもどかしさ、互いに認めたくない己の欲望が湯気のように沸きたってきてどうしようもなくなっていく。のが見える。雨に降られたくらいで冷めるものではなくー。

舞台となった1962年といったら日本では『秋刀魚の味』の年で、同じく食べ物がテーマの映画として(ちがうか)、こうも違ってきてしまうものなのか、とか。『秋刀魚の味』はひっぺがす話で、こっちは(ひっぺがしたい、もあるけど)匂いに寄っていく – 寄せられてしまって困惑してどうしようもなくなる話、というか。

このふたりは互いの事情を明確に語らず、嗜好やああしたいこうしたいも、自分が何をどうしたい、どこまで行きたいのかも最後まで語らず、謎のままで放置の知らんぷりして、それでも彼らが画面の上であんなふうになってしまう肉の声~求めている親密さは調光や衣装や音楽を通して痛痒いほどの距離感で伝わってくる。この点においてMaggie CheungとTony Leungは本当にすごい俳優だと思うし、この作品はどこまでもそんななまめかしいMoodと空気を、その微細さを伝えるべく迫ってきて止まらない。 そして我々はその細部を料理を楽しむように何度でも味わって、口のなかで転がして…


In the Mood for Love 2001 (2001)


上映前にBFIの人が、終わってもおまけがあるから席を立って帰らないで、と言っていたのがこれ。
2001年のカンヌでのWong Kar-waiのマスタークラスで「デザート」として上映されただけだった9分間の短編。

21世紀の街角にコンビニ、というか深夜までやっているデリがあって、ちょび髭をはやしたTony Leungは店員で、Maggie Cheungはそこにやってくる派手な格好にサングラスの謎めいた客で、彼女は何かを抱えてて大変そうだが、お腹を減らしてていつも何かを食べていなくなって、彼はそれを毎晩見つめているだけなのだが、これが2001年に現れるMoodのありよう、というのはわかる。チープに外した洋楽のPVのようだし、ちょっととっぽい兄さん姐さんのかんじは『恋する惑星』 (1994) のようでもあるし。

一皿で終わっちゃうのなんて「デザート」じゃない。まだなんか隠している気がする。
 

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