2月は引越しだのなんだのいろいろあって、ぜんぜん動けなくて呻いて嘆いてばかりだったのだが、映画に関していえば、Chantal Akermanの月、正しくはBFI Southbankの特集 – “Chantal Akerman: Adventures in Perception”の月で、これが底抜けにすごくて、時間があればぜんぶ通いたいくらいだった。
特集は3月まで続くので、まだ少し見るかも知れないが、ここまでで短編中編長編ぜんぶで30本見ていた(既見のもあるが、半分以上は未見)。BFIでかかる本特集の予告には”Complete Retrospective”とあったので、おそらく全作品を網羅しているのだろう。それならもっと気合いれて見ればよかった… (に、いっつもなる。何万回繰り返せば気が済むのか)
メモ程度になってしまうのだが、いくつか。全体として、80年代のChantalは最強ではないか、と。
Les Années 80 (1983)
ミュージカル映画”Golden Eighties” (1986)公開の3年前に、おそらくその資金集めを目的として、40時間に及ぶリハーサル映像を編集したメイキング(というか、それ以上)で、NFFの深夜枠で1回とPublic Theatreで細々と上映されただけだったので資金は集まらなかったのかもしれないが、ここで描かれた”The Eighties” – 80年代にこそ、ちっとも「ゴールデン」ではないけど、あのミュージカルに込めようとしたものがぜんぶ詰まっているように思えた。
主人公の彼や彼女が伝えようとする愛の言葉やメロディは、ミュージカルの文脈から切り離されて、ものすごく浮いて変な – でも焦りとか切実さだけがくっきりと浮かびあがってくるし、それをあの歌やダンスのパッションにあげていくものは一体なんなのか、と。えんえん耳に残って回り続けるあの主題歌をAurore Clémentが歌い続ける傍らで、壊れたみたいに指揮(というのか特殊な踊りのような)をぶん回し続けるChatalと。これを見ると”Golden Eighties”を再び見たくなる。
これとの併映で、コロナの頃、Chantalの誕生日に配信された短編 - “Family Business” (1984)も。 やはり”Golden Eighties”の資金繰りでアメリカに赴いたChatal一行の珍道中というか、なにやってんだろ、の記録。これらも併せると、ほんとあれ、なにが”Golden”やねん、になるに違いない。
L’Homme à la valise (1983)
英語題は”Man with the Suitcase”。TV用に制作されたドラマで、荒れ放題のChantalの部屋に、Henri (Jefferey Kime)という男が居候に来て、部屋は別だけどキッチンとかは共有で、一緒に暮らすのにあれこれ気を使いすぎて(しかもそれらは全て空回りして)頭がおかしくなりそうだったので、出て行って貰おうとするのだがうまく言いだせず、そのうち彼はいなくなって、というそれだけの話。
俳優としてのChantalはデビュー作の頃からずっといるのであまり驚かないのだが、ここでの殆ど喋らずにアクションだけでぜんぶわからせてしまう彼女の演技のすばらしさとおもしろさに改めて驚く。”Golden Eighties”の主題歌も歌ってくれる。
併映は大好きな傑作短編 - ”La Chambre” (1972) – “The Room” - 部屋でごろごろしているだけのChantalをゆっくり回転するカメラがとらえて、それが最後に不意に逆回転をはじめる、ただそれだけなのだが、これが宇宙だ、っていつも思う。 もう1本は、”Le Déménagement” (1992) – “Moving In”。新しい部屋に越してきたSami Freyがなにやらぶつぶつ言っているだけなのだが、この3本で、Chantalの世界観を構成する大きな要素である「部屋」が、そこで横になる、というのがどういうことか、が見えてくるような。
Demain on déménage (2004)
英語題は、“Tomorrow We Move”。 自分が引越しの最中だったのでなんとも言えない気持ちで見る。
Aurore ClémentとSylvie Testudの母娘が、グランドピアノを吊り下げたりしつつ新居に引っ越してくるのだが、いろいろ問題が出たのでやっぱりここを出ようかと、次の住人を探すべく、オープンハウスにしたらいろんな夫婦や家族が次々にやってきて勝手なことをしたり言ったり居ついたり、騒がしくなっていくコメディ。家に染みついた記憶や匂い、住んでいた人、住んでいる人の顔や影が次々に去来して、出ていきたいような、行きたくないような、になっていくの。ものすごく楽しくて、なにより馴染んだ。
そして併映が、Portrait d’une paresseuse aka La ParesseSloth (1986) – “Portrait of a Lazy Woman” – これも動きたくないよう、って言って動かないだけのフィルムで、もうほんとうにすばらしいったらない。
Un jour Pina a demandé… (1983) – “One day Pina asked…”
Pina Bauschを追ったドキュメンタリーで、前にも見たことはあったのだが、改めて。あの頃のTanztheaterのメンバー、なつかしー。 上映後のトークでチェロ奏者のSonia Wieder-Athertonさん(彼女の演奏を撮ったChantalのドキュメンタリー作品がある)が、ChatalはPinaに惚れこんでいて、彼女はPinaのダンスの登場人物のように騒がしい(そこにいるだけで勝手に騒がしくなってしまう)人だった、と言ってて、なるほどー、って。
Letters Home (1986)
Sylvia Plathの分厚い書簡集”Letters Home” (1975)から、母Aurelia (Delphine Seyrig)と娘Sylvia (Coralie Seyrig –Delphineの姪)の手紙のやりとりをRose Leiman Goldembergが舞台化したものをTV用に撮ったもの。離れた国に暮らす母とのやり取り、というと”News from Home”(1976)をはじめ、ママの娘としてのChantalはいろいろなところに顔を出す。そしてSylvia Plathがオーブンに頭を突っこんで自殺した5年後、自分のデビュー作”Saute ma ville” (1968)で部屋ごと自分をぶっ飛ばしてしまうChantal…
Jeanne Dielman, 23, quai du Commerce, 1080 Bruxelles(1975)
本特集を機に、4Kリストア版が全英で大々的にリバイバルされている”Jeanne Dielman…”も久々に(10年以上ぶりくらいか)見る。
3時間22分の作品なので、だいじょうぶか(寝たりしませんように)だったのだが変わらずすごいスケールの作品だと思ったわ。とにかく彼女はずっと動いていて、落ち着きなく騒がしく、屋内の静けさのなかで沈着していく狂気、みたいのとはぜんぜん違う、やかましさのなかで最初からなんかおかしいぞ、って。そしてそのやかましさが止まったとき…
まだあと少し見ると思うが、これからも時間があったらずっと追っていきたい。
あと、今度ブリュッセル行ったらぜったい“23, quai du Commerce”に行くんだ。
2.28.2025
[film] Les Années 80 (1983)
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