1月27日、月曜日の晩、Picturehouse Centralで見ました。
帰英したら真っ先に見ようと思っていたのだが、いまこちらの映画館で一番に掛かっているのは“The Brutalist”で、他には”Maria”とか”Emilia Pérez”とか、オスカーに向けて横並び状態なので、そんなに騒がれていないかも。
監督はJames Mangold、脚本は彼とJay Cocksの共同、原作はElijah Waldによる2015年のBob Dylanの評伝本 - ”Dylan Goes Electric!”。 あの邦題はよくわかんない。これは断じて「名前」や名声を巡る話ではない(そこもひっくるめての、なのか)と思う。
Dylanを演じるTimothée Chalametについては、先のSNLのパフォーマンスで嫌になり、その後の彼の露出の仕方、売り方を見て、あーこういう人なのか、と距離を置くようになった。
1961年にNYにやってきたBob Dylan (は、まず病院でほぼ寝たきりのWoody Guthrie (Scoot McNairy)と彼の面倒を見ているPete Seeger (Edward Norton)と会って、ギターで一曲弾いて聞かせて、それからNYのフォークシーンに出入りするようになって、いろんな人々と出会って、そこから我々の知るいろんな伝説が渦を巻いていくわけだが、それらすべては、まず彼が手にするギターと歌によって導かれて、まずは彼の音楽を起点とする、というルールが場面を貫いて掟のようにある、という点でこれは紛れもない音楽映画で、音楽が途中でぶちっと切られて次のシーンへ、のようなのが殆どないのはよかった。いい曲だねえ、って首を振っているうちに140分経っている。
最初のガールフレンドが、あのジャケット写真で有名なSylvie Russo (Elle Fanning) - 実際の名前から変えてある –で、そこから既にシーンのスターになっていたJoan Baez (Monica Barbaro)のところにも入り浸って行ったり来たり。あとはManagerとなるAlbert Grossman (Dan Fogler)がいて、Johnny Cash (Boyd Holbrook)がいて、Bob Neuwirth (Will Harrison)、Al Kooper、Mike Bloomfield、などが順番に現れる。 テープレコーダーをいじっているAlan Lomax (Norbert Leo Butz)が映ったのがうれしかった。 朝ドラの枠(15分)で、一日一曲、彼らとの出会いをずっと繰りひろげていくのが見たい。
こんなふうに彼を求めて周囲にいろんな人物がひしめいていく反対側で、Dylan本人はほぼ何も語らず、思わせぶりに微笑んだり殴られたり、いつの間にかできあがっているような曲を場面場面で歌って去っていくだけ。もちろん、歌うことで何かが明らかになったり解決したりするわけではなく、聴かされた人々はその場で痺れて動けなくなる、それはそれで恐いと思うが、そういうかたちで伝説が練られていった - Dylan本人に対する謎と、その重ね着と、その上に積もっていく人気と売り上げ、これらに埋もれてどんどん見えなくなっていく彼 – これが”A Complete Unknown”というもので、彼に恋をした女性たちからすれば地獄だと思うが、それらも含めて”A Complete Unknown”で、かっこよくて、曲がよければよいの? など、そういう形で示されていく彼の周囲の文化のありよう、その蓄積? 変容? のようなもの。
Newport Folk FestivalでDylanがエレクトリックを鳴らすかもしれない、となった時の周囲の混乱と困惑がクライマックスで描かれて、ずっと父親のように彼を見てきたPete Seegerは、これまでのフェスが培ってきたよき「伝統」が壊されてしまう懸念を表明するのだが、結果はみんな知っているとおり。 この音楽映画に欠けているものがあるとすれば、そんな全方位からの抵抗に抗ってもなお、彼をエレクトリックに向かわせたものは - 苛立ちなのか懐疑なのか嫌悪なのか、単なる好奇なのか - 何だったのか、を彼の視野 - 彼が当時見たり聞いたりしたもの – から拾いあげることで、それがないので、これらはぜんぶ彼の勝手で、それは彼が天才だったから、で終わってしまう。それは事実なのかもしれないけど、そうでもないことも知っている。 だって当時の音楽はフォークもエレクトリックもとんでもなく豊かだったのだから。
もっとエレクトリックのビリビリしたかんじ、スネアの炸裂があったら、なぜフォークの人たちはあんなにもこういうのを忌み嫌ったのか、などもわかったかも。
この映画のTimothée Chalametは確かにかっこよいのかもしれないが、当時の実物のDylanはこれを遥かに上回って素敵だった(はず)、ってこれは年寄りが言い続けるしかないのか。というか若い子にDylanを聞かせるにはこうすればよいの、って。
これを見ておおー、ってなった人は3月のCat Powerの来日公演、行ったほうがいいよ!
2.01.2025
[film] A Complete Unknown (2024)
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