2月1日、土曜日のマチネをHarold Pinter Theatreで見ました。
昨年Almeida theatreで上演されて、Guardian紙の2024年演劇ベストとなった作品のリバイバル(?)。
原作は2022年にノーベル文学賞を受賞したAnnie Ernauxの小説、”Les Années” (2008) - 「歳月」(未訳?) - マルグリット・デュラス賞、フランソワ・モーリアック賞を受賞している。脚色・演出はオランダのEline Arboで初演もオランダ。彼女はこれの前にはMichael Cunninghamの”The Hours” (1998)の劇作もしている(見たい…)。
小説では「彼女」とされているErnaux自身を世代の異なる5人の女優が演じていて、各自が名前で呼ばれることはない。第二次大戦の少女時代から00年代初まで、約70年間を彼女(たち)はどんな顔、貌で過ごして、生きてきたのか。彼女たち全員、ずっとステージ上にいて、男優はひとりも出てこない。
時代の切れ目には白いシーツを背景にその時代の主人公となる「彼女」の肖像写真を撮るシーンがはさまる。彼女はどんな表情、姿勢で世界に向かっていったのか - そして、その背後にある世界は大戦後の混乱期から、アルジェリア紛争、60年代の学生運動、ヒッピーの自由、新しい技術、バブル、結婚、倦怠、など、激動ではないが変わるものは変わる - 時代時代の空気を反映して、当然年齢と共に彼女(たち)の服装も態度も表情も変わっていく。 その時代の纏い方、文化や音楽の使い方、その相互に変わっていく姿に違和感はなくて、それが彼女(たち)の像と歳月(The Years)と共にどう変わっていったのか、変わらないもの、忘れられたもの、忘れられなかったものはなんだったのか、彼女(たち)はどう向かいあっていったのか、など。 肖像写真の背景となった白いシーツはドラマのなかで汚れたり汚されたり落書きされたりして、それらは時代ごとに幟のように掲げられ、あるいは壁の落書きのように貼られてそこにずっとある。
これのひとつ前に見た映画”Here” (2024)も、こんなふうに描かれるべきものだったのかも知れない。(タイトルは”There”、かな)
Annie Ernauxの別の小説 -『事件』を映画化した”L'evénement” (2021) -『あのこと』でも描かれた(当時違法だったので闇で実行した)堕胎のシーンはこの舞台にも出てきて、やはり怖くて凄惨で、気分が悪くなってしまった客がでた、ということで急遽15分くらいの中断があった。それくらい血まみれの息がとまる場面で、中断後に止まったところからすんなりそのまま再開したのを見て俳優さんってすごいな、って改めて思ったり。
それぞれの時代における彼女(たち)の「生きざま」を問うようなものではないの(そんなの問うてどうする?あんた誰?だれが何の資格があってよいとかわるいとかいうの?)。 彼女は例えばこんなふうにしてあった、ということ、人間関係や社会や歴史がどうあろうと、数十年かけて、彼女は自分の足で立って歩いて舞って、こんなふうに生きたのだ、わかるか? って。 最後、汚れてくたびれた布に、彼女たちひとりひとりの顔がモノクロで投影され、それがステージ上をゆっくりと回っていく。そうやって語られる”The Years”。 個人史と社会史は、例えばこんなふうに交錯しうるし、影響を与えあうのだ、と。20世紀の真ん中から21世紀にかけて、だけじゃなくて、実はずっとそうだったんだよ、何を恐れることがあろうか、って。 日本でも上演されてほしい。とても強く、でもぜったい正しい - 時間が流れていく、その正しさとは例えばどうやって示されるのか、を考えさせる舞台。
ラスト、主演の5人の表情と立ち姿がすばらしくよくて、もう一回見たい。
2.07.2025
[theatre] The Years
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