9.29.2025

[film] Der Anschlag (1984)

9月19日、金曜日の晩、ICAで見ました。
ドイツの女性映画監督、Pia Frankenbergの特集で3日間で5本の上映がある、と。

彼女のことは殆ど知らなくて、Ulrike Ottingerの” Freak Orlando” (1981)にScript Supervisorとして参加していたり、写真家のElliott Erwittと結婚していたり、いろいろあるようなのだが、本人も来てトークをするようだし、見てみようかな、くらいで。

Der Anschlag (1984)

彼女の2番目の短編で、英語題は”The Assault”。 8分くらいのモノクロで、Pia Frankenberg自身も登場する。今回は35mmプリントでの上映。歩いている男性が、そこにいた女性を突然ビンタしてそのまますーっと立ち去って、女性はなんてこと? ってやり返せないまま絶句してしまうのだが、しばらくすると、彼女がそこらにいた人をビンタしていて、気がつくとその振る舞いが街中に伝播して、みんなでわーわー大変なことになってしまう。というのを遠くからとらえている。

これ、後のトークでも言われていたが、いまのSNSの状況がまさにこれなんだよね。物理的な痛みがこないだけで、ぜんぜん知らない通りすがりの人に文句言ったり傷つけたりを平気でする/やり返すようになってしまって、みんながそれに熱中して、そんなのが常態化してしまっている。

まだ映画を撮り始める前、ヴェネツィアの映画祭に行って、あまりに退屈でつまんないので友人とうだうだしている時に思いついた話だそう。

Nicht nichts ohne Dich (1985)

長編デビュー作で、英語題は”Ain’t Nothin’ Without You”、ヴェネツィアでプレミアされてMax Ophüls Prize for the best German-languageを受賞している。モノクロのThomas Mauchによる撮影が素敵。

映画監督のMartha (Pia Frankenberg)と建築を学んでいるAlfred (Klaus Bueb) - 天辺はげでメガネで無精ひげ - がいて、割と裕福なMarthaと貧乏なAlfredのそれぞれのいろんな人たち – ポルトガル移民とか - との出会いやいざこざと、他人はよいとして自分の明日はどっちだ、の政治やフェミニズムを巡る葛藤と彷徨いの日々を寒くてしんどそうなドイツの風景のなかに描いて、とてもおもしろかった。 80年代の最初の方、何をやっているのかよくわかんない人たちの、なんかできる、やれそう、っていうだけで転がっていって、気がつけばどこかに散ってしまってあれってなんだったのか... こんな話って、割とそこら中にあったような。

Sehnsucht nach dem ganz Anderen (1981)

19日の上映がおもしろかったので、23日の晩の上映にも行ってみた。
英語題は”Longing for Something Completely Different” – これが彼女の監督短編デビュー作。14分で、会話とかはなしで背後をジャズが流れていく。

ドイツのどこかの駅で、夜の列車に乗りこもうとしている若い女性がいて、掲示板を見たりしつつ、どれに乗ろうか決めかねているようで、でも決めて乗りこんで、何をするかと思ったら、寝込んでいる乗客の横に座って、そうっと荷物を開けて中にあるものを取り出して、を始める。盗んだり壊したり持ち主に何かしたりするわけではなく、単にかばんとかお弁当箱とか、なにが入っているのかを確かめて、その周りにブツを広げていくの。やがて、それを遠くから見ていた謎の女性(監督本人)が横に来て…  

上の“Der Anschlag”もそうだったが、実際にあまり起こるとは思えないような出来事を描いて、でもそれが起こったとしたらどんなふうに見えるのか、どうなってしまうのかを想像力でもって捉えようとする、アート、パフォーマンス系の作家のアプローチなのだが、へんな臭みがなく、全体を俯瞰して斜め上から眺めているようなクールネスがある。 いまの作家だとMiranda Julyだろうか(なんとなく雰囲気も似ている)。

Nie wieder schlafen (1992)

これが現時点で彼女の最後の映画作品となっている(いまは執筆活動が主だそう)。英語題は”Never Sleep Again”。

Rita (Lisa Kreuzer – ヴェンダース映画の常連), Roberta (Gabi Herz), Lilian (Christiane Carstens)の3人の女性がベルリンに車で着いて、誰かの結婚式に参列して船の上のパーティのあたりからつまんなくなって、そこを抜けて、ベルリンの壁(崩壊)の痕がまだ残っている街を彷徨ったり語ったり呑んだりいろんな人と出会ったりしていくさま – だるいけど、いつまでも起きてこんなふうに喋ったりうろついたりしていたいんだ – の終わらない日を描いていて、とてもよかった。 このモードがNYに行くと例えば”Sex and the City”になっていったりしたのかも。

都市があって、あまり明確な目的はなさそうだけど、じたばた生きている人たちがいて、それぞれのこんがらがった像や事情をこんがらがったままに置いておもしろく見せるのって、結構むずかしい気がするのだが、彼女の90数分間はそれがうまく示せている気がした。


今回、特集の2日目に上映されて見れなかった”Brennende Betten” (1988)は、撮影がRaoul Coutardで、Piaの相手役としてIan Duryが登場するスクリューボール・コメディだと… 見たかったよう。

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