9.10.2025

[music] St. Vincent

9月3日、水曜日の晩、Royal Albert HallのBBC Promsで見て聴いた。
クラシックがメインのBBC Promsだが、毎年数組はRockやPopular系の人の枠があって、今年は彼女が。
前座なしで20:00きっかりのスタート。

彼女がクラシックの方に寄って何かやるとなると、2018年にピアノのThomas BartlettとふたりでCadgan Hallでやった彼女の歌にフォーカスしたライブを思い起こしたが、今回会場にはフルオーケストラがセットされていて、パーカッションの並びと装備が壮観。パーカッションは3名、コーラスも3名(女2、男1)、彼女のバンドのベース、ドラムス、ギターもその森のなかに埋もれ、指揮はJules Buckley。 オーケストラが配置についた後、最初に彼と、今回の編曲を担当したキーボードのRachel Eckrothが現れて配置につき、ゴージャスなインストゥルメンタルの”We Put A Pearl In The Ground”から。一聴して、ものすごくふかふかで分厚くて滑らかで、7月に見た”All Born Screaming”ツアーのごりごりばきばきのサウンドスケープからすれば笑っちゃうくらい、ものすごく違う。 

2曲目からSt. Vincent – Anne Erin Clarkが黒のスーツで現れて、”Hell is Near”から歌いはじめる。彼女の声の肌理って、David Byrneとやった頃からどんなアレンジにも楽器たちにも負けない、背景がどんなに変で分厚くとも、分厚いほど活きて飴のように伸びる艶を持っていることが明らかになったと思うのだが、今回のは本当にバックの音の海に全てを委ねて気持ちよく渡っていくような。

3曲目くらいからエレクトリックギターを下げて、でもオーケストラがいるので自在に動きまわり弾きまくることもできず、でもだんだんその箍が外れていって、終盤の”New York”ではマイク片手にピットに降りていって、(自分の席からは見えなかったけど)観客と一緒に飛び跳ねていた。

曲構成としては初期の”Marry Me” (2007)や”Actor” (2009)からの曲が - 久々に聴いたからかも知れないけど、ものすごくよく響いていた。曲の作り方とか、この頃は少し違っていたのではないか。

今回のに関してはアレンジのRachel Eckrothの功績がものすごく大きいと思って、メンバー紹介でも、「彼女をパーティに誘ってもラップトップを持ってフロアの隅で編曲していた」というくらいにすばらしく重厚な、ところどころポップで軽やかな絨毯を編みあげていた。彼女、過去にはRufus WainwrightやAimee Mannのキーボードやアレンジもやっていたそうで、なるほどー、しかないわ。


Throwing Muses

9月9日、火曜日の晩、Village Undergroundというライブハウスで見ました。

NYにも同名のコメディをやっている小屋があるが関係はないと思う。Villageではなく町の外れにあって、Undergroundではなくただの倉庫スペースのようなところ。 客は自分も含めて老人ばかりなので立っているのがきつそうだった(し、帰りはストのおかげでバスが来ないし)。

Kristin Hershのソロは、2018年、Robert SmithがキュレーションしたMeltdownのフェスで見ていて、その時にもMusesの曲はやっていたので、バンドでライブをやるとは思っていなかった。(そういえば丁度いま、Tanya DonellyもBellyでツアーをしている)

前座はforgetting you is like breathing waterというトランペットとギターの二人組で、名前だけだとリリカルふうだが、音はギターの轟音の上にトランペットが雲のように覆いかぶさるインストゥルメンタルで、やかましいけど気持ちよかった。

今回のライブは今年3月にリリースされた新譜”Moonlight Concessions” (2025)をフォローしたもので、バンドの3人+チェロで、最初から最後までずっとこの構成を崩さず、殆ど喋らずにひたすら演奏を重ねていくだけ。

彼女のソロの時のライブは座ってリラックスして、いろんなことを喋りながら演奏していった記憶があるが、バンドだとやはり違うのか、口元はミューズの微笑みを湛えていても目が笑っていないし、音の荒れようときたら30年前のバンドのそれではない。ギターをアコギに変えても、チェロとドラムスのアタックがぶつかりあってよりやかましく聞こえるし。

新譜と今世紀に入ってからの作品がほぼだったので、知らない曲も多かったが、“Counting Backwards”とかはやはり盛りあがる。それ以上に、この曲がまったく浮きあがってこないくらいに、どの曲もおなじ粒の硬さ粗さで磨かれていたのがすばらしいと思った。明るくも暗くもない、歌いあげることも、はぐらかすこともない、少し下を向いてちょっと不機嫌にひたすら地面を蹴り続けるミューズの姿があって、それはそれは素敵ったらなかったの。

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