9.03.2025

[theatre] A Man for All Seasons

8月20日、水曜日の晩、Harold Pinter Theatreで見ました。

原作はRobert Boltの同名戯曲 (1960)、1966年に、Fred Zinnemann監督、原作者自身の脚色、Paul Scofield主演で同タイトルで映画化され(邦題は『わが命つきるとも』)、作品賞を含む6部門でオスカーを受賞している(未見)。

これはTheatre Royal Bathのプロダクションで、今年の初めにバースで上演されて英国をツアーしている(なので1カ月しかやらない)ものがロンドンに来た。演出はJonathan Church。

英国の歴史もの、歴史上の人物が出てくる演劇は勉強になるので見るようにしている。人物像や歴史(ストーリー)を学ぶ、というのもあるし、出てきた人物に対する客席の反応 – Cromwellにブー、とか – を見るとなるほど、ってなったりもするし。

1520年代の終わりから1530年代にかけての英国で、Anne Boleynと結婚したいためにHenry VIIIはCatherine of Aragonとの結婚無効(離婚)を教皇から認めて貰いたいのだが、法を守る者として断固反対して意を曲げずに斬首されてしまったThomas Moreの像を、当時の政治・宗教だけでなく、彼を支えた家族も含めて描く評伝ドラマ。

舞台はチューダー朝ふうの重く荘厳な建物の内部で薄暗く、本棚にはびっしりの本の影があって、そういう中を(ほぼ)男たちが難しい顔で歩き回ったり怒鳴ったり密談したりしている。衣装も同様に法衣とか、家の中にいてもがっちりと重そうなのを纏っていて偉い人たちは大変そう。

主人公はThomas More (Martin Shaw)だが、他の重要な登場人物としてthe Common Man (Gary Wilmot)というのがいて、彼は召使いや船頭や看守、最後は死刑執行人などの顔をして常に現場(舞台袖)で聞き耳を立てていて、場面が切り替わるところで客席に向かってコメント(いまならtweet)したり、今の会話や動きが庶民の目や耳にはどんなふうに入っていったのか、を語り部のように教えてくれる。なかなか勉強にはなる。

Thomas Moreは最後まで落ち着いた人格者として描かれて、彼と正面から敵対するThomas Cromwell (Edward Bennett)にも、直接頼みにくるHenry VIII (Orlando James)にもブレることなく、激しい論戦を戦わせることもあれば沈黙こそが安全、って何も言わずに返すこともあり、相手側は戦術を変えてあれこれ噛みついてくるものの、日照りになろうが大嵐が吹こうが依って立つところ、正しいと思う軸はぶれないし動じない – そんな“A Man for All Seasons”であるMoreの姿の反対側で、妻Alice (Abigail Cruttenden)と娘Margaret (Annie Kingsnorth)にとってはよき夫でよき父で、彼の優秀さと正しさは十分に理解しつつも、そんなに曲げないでいると始末されてしまう、だからもういいから妥協して逃げましょう、って請うのだが彼がそう簡単に折れる人ではないこともわかっている。

なので、ここまで善悪と白黒がはっきりしたドラマであるのだから、Cromwellを中心とした悪玉の方にどこまでもゲスに悪どくなって貰いたいところで、実際彼は憎らしいくらいに狡猾で嫌らしいのだが、もっとひどくても、って思った。舞台セットがあそこまでずっと暗くて重いのだし。

この頃から約500年が過ぎて、自分の私利私欲のためには規律も法律もどうでもよい、なんならそっちを変えてしまえばよい、という政治家(+それに群がる官僚)がグローバルに溢れだした昨今(なんなんだろうね?) - “A Man for All Seasons”の意味も逆転したりして - もっとリアルに嫌らしくどす黒い政治ドラマにしちゃってもよかったのに、などと思いながらThomas Moreが斬首された建物の方に帰るのだった。

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