9.26.2025

[film] Anna May Wong: The Art of Reinvention

BFI Southbankの9月の(正確にはLFFが始まる10月頭までの)特集で、”Anna May Wong: The Art of Reinvention”をやっている。

1905年にアメリカ西海岸で中国系移民3世として生まれ、サイレントの頃からヨーロッパ、ハリウッドで活躍した彼女のことは何本かの映画で見てきたものの、彼女はいつも脇役だったり、時として悪役だったり、あまりセンターに置かれて朗らかで幸せな役を演じることはなくて、それらを通して見えてくるのは、当時の観客がどんなふうにアジアの若い移民の女性を見ていたのか、ストーリーにおける彼女の表情、振る舞いや役柄に何を求めていたのか、などで、それを見て感じるなにかは同じアジア人として心地よいものばかりではないのだが、でも彼女はそれらを自身の身体で演じることを通して、はっきりと何かと戦っていたのだ、ということが見えてくるのだし、これらを作ったりこれらに触れたりしてきた欧米人の感覚が当時からものすごく変わったようにも見えないので、彼女の戦いは今を生きる我々のそれにも通じてくるに違いない、と。

この特集で彼女の映画が上映されるホールの前にはだいたい”Content warning: Contains sexist and racist attitudes, language and images”という注意書きが貼ってある。

あと、今回の特集のすごいのは、最近リストアされたもの以外を除いて、ほぼBFIのアーカイブにある35mmフィルムで上映されて、サイレントの場合はライブのピアノ演奏が付くこと。

The Toll of the Sea (1922)

9月1日、月曜日の晩に見ました。サイレントで、テクニカラーのフィルム。テクニカラーの最初期の1本で、当時技術的に可能だった赤と緑の色素だけで作られたカラーなのだそう。よくわかんないけど。
Anna May Wongが17歳だった頃、最初期の主演作。監督はChester M. Franklin。

「マダム・バタフライ」の舞台を日本から中国に替えただけの、溺れていた白人を助けて恋仲になって結婚の約束までしたのに彼は帰国して、戻ってきた時には結婚していて、彼女は.. っていうありがちな悲恋もの。

Großstadtschmetterling: Ballade einer Liebe (1929)

9月6日、土曜日の昼に見ました。
ドイツで撮られた彼女の最後のサイレントフィルムで、監督はRichard Eichberg。英語題は”Pavement Buttefly”。これは前に見たことがあるやつだった。

見世物小屋のダンサーだった彼女がそこを抜けだして若い画家と出会って恋に落ちるのだが、彼は画商の娘と出会ったらそちらに行っちゃって、見世物小屋から粘着してくる奴もいて、以降は転落してぼろぼろになっていって、かわいそうったらないの。

パーティのシーンで日本の提灯がかかっていたりする。

Die Liebe eines armen Menschenkindes (1928)

9月7日、日曜日の午後に見ました。月1回のサイレント特集の日で、市民の携帯に警報のテストアラームが来る、ということで開始を5分遅らせていたのだが、めちゃくちゃやかましいのがわんわん鳴りだして、サイレントを上映するのになんてこと!ってみんなで怒っていた。

これも監督はRichard Eichberg – 彼と組んだ最初の作品で、彼女にとって最初のドイツ映画 - で、英語題は”Song” - 主演の彼女の名前。貰ったプログラムノートには、この映画の撮影でベルリンに滞在した時にベンヤミンと出会って、彼は彼女に魅了されて、とか書いてある。

イスタンブールの磯で生きた蟹を彼女が齧っていたら(...おいおい)、2人組の男に襲われて、それを救ってくれた通りすがりのナイフ投げ芸人のところに付いていって、彼と暮らし始めるのだが、彼は前に付きあっていた歌手のことをずっと想っていて。バカな男にとって極めて便利で都合のよい一途なアジア人女性の典型をこれでもか、っていう波乱万丈のメロのなかで見せられて、あーあ、ってなった。

Peter Pan (1924)

9月21日、日曜日の昼に見ました。
監督はHerbert Brenon。 サイレントで、(後から買われたものだと思うが)ディズニーのお城の上に星が降りそそぐオープニングのすごく古いのが。親子連れもいっぱい。

Anna May WongはTiger Lily役。 犬のNanaが着ぐるみだったり、ワニも着ぐるみでかわいいし(でも海にいるのか?)、引き込まれて見てしまった。

Tinker Bellが弱って死にそうになるところでは、Peter Panが客席に向かって「みんなの力が必要なんだ!力をくれ!」っていうので、日曜の昼間だし、みんなで懸命に拍手して、Tinker Bellを救ってあげたりした。

The Thief of Bagdad (1924)

9月21日、日曜日の午後に見ました。
監督は問答無用のRaoul Walsh、主演はDouglas Fairbanks。彼女はモンゴル人の奴隷役。 あっという間の154分。

彼女の扱いも含めて、典型的なオリエンタル、アジア描写が満載なのだが、全体がおとぎ話の大噓ホラ噺風味を豪快に貫いてあまりにバカバカしいので、しょうがないか(なにが?)になってしまう。それらを浮かびあがらせずに納得させてしまう、セットや演技の堂々として力強いこと。

Hai-Tang (1930)

9月23日、火曜日の晩に見ました。
別の英語題は”The Flame of Love”。彼女の最初のサウンド映画で、声だけ別テイクにすればよいのに、英語版、ドイツ語版、フランス語版、それぞれ別に男性の主役を置いて、言語別に撮影された - フランス語版は、英語/ドイツ語版のプレミアの後にパリに渡って撮られたのだそう。で、彼女はひとり特訓して、ドイツ語もフランス語もぜんぶ自分の声で喋って演じている、って。一番メジャーなのはドイツ版だそうだが、今回上映されたのは英語版。

ロシア人中尉が踊り子Hai-Tang (Anna May Wong)に恋をして部屋で会ったりしていて、でも彼の上官からHai-Tangと夜に食事をさせろ、って厳命がくだって… 今だとセクハラ、パワハラの教材ネタにしかならないくらいにしょうもないお話しなのだが、彼女のリアル歌声はすばらしかった。

まだ特集は続いていて、あと2本くらいは見ると思うので、また書くかも。続けて見ていった時に見えてくるものがメインストリームの大女優の特集のそれとはぜんぜんちがう。 ごくシンプルに、嫌な社会だ、って思う。

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