9.18.2025

[theatre] Juniper Blood

9月6日の晩、Barbicanで”Good Night, Oscar”を見て、そこのギャラリーでGiacomettiなどを見たあとの晩、Donmar Warehouseで見ました。

演劇を昼と夜ではしごする、というのは映画のそれとも音楽のそれとも違って、ちょっと疲れるけどものすごくおもしろい経験だなあ、と改めて思った。

原作はMike Bartlett、演出はJames Macdonald。

場内に入るとものすごく明るい照明で昼間のようで、ステージがあるところには本物の盛り土がしてあって本物の草が雑に生えていて、鳥とか虫の声が響いていて – 鳥はいないが実際に虫が湧いたりしたらしい - 要は日が照っている昼間、畑がある一帯、のようなところらしい。土と草の匂いがなんだか新鮮。

そこに農作業をしているらしいLip (Sam Troughton) – 髪も髭も手入れしてない無表情で浮浪者一歩手前に見える- がぼーっと現れて、虚ろな目でタバコを手で巻いてどんより吸っていると、その光景とは明らかに場違いなバカンスの恰好をした若者男女ふたり - Femi (Terique Jarrett)とMilly (Nadia Parkes) – が現れる。あまりのギャップにお呼びでない、になるかと思ったら、MillyはLipのパートナーRuth (Hattie Morahan)のex連れ子で、Femiはオックスフォードで現代農村経済みたいのを学んでて、口だけは達者でぺらぺらぺらずっと喋っている。Z世代の若いふたりは休暇ついで&手伝いでやってきて、そんなに深く考えずに農業しんどいーむりー、とか好き勝手にいう。

Lip(とRuth)はRuthの相続した土地があったのでNYの北の方にオーガニック&サステイナブルな農業の実現を求めてやってきて、日々土を耕したりしてはいるものの、Lipの顔と態度、あと舞台上に散らばった土の山とか掘られた穴とかを見る限りうまく回っているようには見えない。隣家のお気軽な農家のおっさんTony (Jonathan Slinger)は、オーガニック農業なんて金持ちの道楽でできっこない、とか言うし、若者たちも横から勝手な適当なことばかり言うのでLipは宴のテーブルの上から土を落としたりする。それでも時間は経つし日は暮れていくし。(照明は幕の終わり頃には夕暮れの明るさ程度まで落ちてくる)

弁のたつFemiがサッチャー政権当時に生まれたLip達の世代が、どんな文化的バックグラウンドを背負ってどんな思想傾向を持つに至ったか、他方でグローバル経済の進展がいかに都市と農村の地域間、国家間の経済格差を生んで結果的に誰も儲からない、おいしくない仕組みを組みあげてしまったか、この世代が正面からぶつかってこんなふうな総どん詰まり状態を生んでしまった今について爽やかに得意げに語り、だがしかーし、AIをはじめとするテクノロジーの進展がどうにかしてくれるに違いないのだ、みたいなお子様の議論を展開して(結果、泥ざばーん)、この辺はなかなかおもしろかった。

真面目にやろうとした正直者がバカを見る、儲けるのだけは得意なバカばかりがデカい顔をする、こんなのは農業だけじゃなく世界の至る所で見ることができて、どう生きるべきか、みたいな話はするだけ無駄、みたいになってしまった今の世の中で、でも生きないわけにはいかないのでー、ってなにもかもうんざりの今の中高年にははまるところも多かったのではないか。

こういうドラマだとは思っていなかったので、ややびっくりした。職業格差に関わる話なのか世代間のそれなのか、それらの複合でどっちにしたって相容れないまま滅んでいくしかないのか。

もちろん解決策なんかなくて、最後はチェーホフみたいな黄昏がやってきてどんよりするしかないのだが、でもあのラストはどうだろうか? ちょっと甘すぎやしないか、とか。
 

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。