8月7日、木曜日の晩、ロンドンの南西、地下鉄の終点のRichmondにあるOrange Tree Theatreで見ました。
このシアター、もとは1867年に小学校として建てられたゴシック調の建物の地下にあって、客席が四方から囲んで見下ろすスタイル。予約した席にいくと自分の名前が書かれた封筒が置かれていて、開くとポストカードとその裏に、このシアターに初めて来てくれてありがとう、ってぜんぶ手書きの(結構長い)メッセージが書いてある。他の席にも封筒は置かれていて、席数180で大きくないとはいえ、そんなことをされたのは初めてだったのでちょっとびっくりした。
アッシジの聖フランシスコ、というとまずはロッセリーニの映画 – “Francesco, Giullare di Dio” (1950) - 『神の道化師、フランチェスコ』で、わたしはこの映画が好きすぎて昨年アッシジに詣でてしまった(Clareのお墓にも行った)くらいなので、この映画にも少し出てくるアッシジのキアラ - Santa Chiara(英語だとClare)d'Assisi (1194-1253) が主人公の話であるのなら、見ねば、と。
タイトルは「かわいそうなクレア」ではなく、彼女が設立したOrder of Poor Ladies – 通称”The Poor Clares” - 日本だと「クララ会」 - から来ている。富を棄てて貧乏であろうとしたクレアの像を通して現代の貧困についても考えさせるような劇にもなっている。
原作はアメリカのChiara Atikによる同名戯曲で、2022年のAmerican Theatre Critics Associationをはじめいくつかの賞を受賞している。演出はBlanche McIntyre。 休憩なしの1時間45分。
Clareを演じるArsema Thomasはこれが舞台デビューで、Netflixの”Bridgerton”のスピンオフドラマに出ていた人、Francesco役のFreddy CarterもTVで活躍している人だそうで、全体としてはやはり”Bridgerton”調の、現代のテンポやコミュニケーションにアジャストしたオルタナヒストリーもの – みんなアメリカ英語だし – の様式をとっている。 これをおもしろいと思えるかどうか、だと思うが、自分にはとてもおもしろかった。
舞台上には粗末な木の椅子や台が置かれていて、ずっと薄暗く人物の像を浮かびあがらせる照明。冒頭、Clareと妹のBeatrice (Anushka Chakravarti)が侍女ふたりに髪を結ってもらっていて、妹はゴシップも含めてちゃきちゃき敏感なおしゃれさんで、でもClareはそんなでもないようで、道端でホームレスと出会ったり、修行中のFrancesco (Freddy Carter) – ちょっと生意気で嫌な奴っぽい描かれ方 - と会話しているうちに、自身の不自由ない裕福な身分や貧富の差について考えるようになって、それは彼女の言葉として出てくるわけではなく、靴や宝石をぽいって与えてしまったり、最後には用意されていた自身の婚礼まで棄ててしまうことになる。自分でもよく理解できない衝動のようなものに突き動かされていく彼女の仏頂面がとてもよいの。 現代の富豪に彼女の爪の垢でも…
でも全体としては若者のお話しとして軽快かつコミカルに進んでいって、Francescoが僧侶のカッパ頭になったのを見た時のClareの反応とか、めちゃくちゃ笑えてよかった。
Extraordinary Women
8月10日、日曜日の午後、Jermyn Street Theatreで見ました。
これも小さい70席の地下にあるシアター(Off West Endっていうのか)。 この日が最終日だった。
原作はCompton Mackenzieの同名小説(1928)。1928年はVirginia Woolfの”Orlando: A Biography”が出た年でもある。 これがミュージカルに翻案されて、作詞はRichard Stirling、作曲はSarah Travis、演出はPaul Foster。初演は2021年にGuildford School of Actingで。 舞台袖にはピアノとギター/ダブルベースの伴奏者がふたり。
第一次大戦の頃、地中海にある架空の島 – Sirene(「セイレーン」。実際にはカプリ島がモデルらしい)に、レスビアンを中心とした女性の理想郷(であってほしい郷)があって、そこでの女性たちの好いた引いた荒れた萎んだ壊れたで崖の上まで行ってしまったりあちこちすったもんだして転がっていく複線の関係をアンサンブル(何名かは兼務。男優一名はいろんな役をひとりで)の歌と踊りで贈る、というもので、艶っぽくてなにかとお騒がせのRosalba (Amy Ellen Richardson)を中心として個性たっぷりの6人が歌って踊って、全員とにかく歌がうまいのと、アールデコ調の衣装が素敵で、当時の雰囲気に引き込まれる。
戦争でバカな男たちがわーわー騒いで固まって腐臭を放っていくその脇で、こんな世界があった/あろうとしたのだ、というのをイメージするだけで楽しかったり。
8.14.2025
[theatre] Poor Clare
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