8.16.2025

[film] Heldin (2025)

8月5日、火曜日の晩、BFI Southbankで見ました。 新作のスイス・ドイツ映画で、英語題は”Late Shift”。
(原題のドイツ語は「ヘロイン」でつまり)

作・監督はスイスのPetra Volpeで、今年のベルリンでプレミアされている。
ポスターを見ればわかるのだが、夜勤(Late Shift)をする若い看護婦のお話しで、少なくともコメディではなさそうで、辛くてきつい内容だったらちょっとやだな、と思いつつ。

スイスのバーゼル(たぶん)の総合病院に看護婦のFloria (Leonie Benesch) - 新人でもなく年長でもない - がLate Shiftに入るところから始まる。更衣室で同僚と新しいスニーカーいいなー、とか他愛ない会話をしつつ、病室をまわり始めるとルーチンの検査対応以外に患者とその家族たちからものすごく沢山の質問やお願いや嫌味や苦情がとんできて、そのすべてにASAPのフラグを立てられて、明らかに人手が足りていないことがわかる。

看護婦としての通常の仕事以外で受ける依頼やお願いにひとつとして同じものはなく、患者の容態だって刻々と変わっていくものだし、それら全てに公平に平準にサービスを提供することなんてできるわけないのだが、現場に出ている彼女はそれらをフロントでぜんぶひっかぶって、回せるものは医師に、なのだが医師もずっと手術室に籠っていたりで捕まらないし、帰宅しようとするところを捕まえてももうくたくたなので勘弁して、と逃げられてしまう。

患者のなかにはシリアスな容態ではなくても泣きだしてしまったりする人もいて、そんな心のケアもしないわけにはいかず、そうして手薄になったり時間が掛かったりした先には必ず取り返しのつかない事態が待っていたりして、でも時間は戻ってくれない。

あたりまえのように患者の容態も、それに紐づいた人生や性格もそれぞれで、よい人もいればかわいそうな人もいるし、ちょっと離れて嫌な奴、いじわるな人もいて、寝かされているベッドの上ではそれらがダイレクトに表に出て、場合によっては家族も一緒になって彼女にぶつかってくる。お茶を頼んだのにxx分掛かっている、って時計を手にして偉そうにクレームしてきた男の時計を取りあげていきなり窓から放り投げてしまうシーンは痛快なのだが、後でこっそり外に探しにいったり、あまりに辛いので娘の声を聞きたくて隙間に電話するのだが、娘は相手してくれなくて泣いちゃったり、そんなふうに流れていく夜明けまでの時間を追う。

現実の世界にはスーパードクターもスーパーナースもそうはいない、奇跡なんてそう起こるわけがないのに誰もが自分はよくなる、ここから出て行ける、と強く思いこんで自分ファーストで勝手なことを言いまくりやりまくる、それらがなんで彼女たちの前だと許されてしまったりするのだろうか?

自分が半年ほど前に手術・入院して、その際の対応を見て思ったのは、呼んだからってそんなにすぐ来なくても、そんなに朗らかにしなくてもいいのに、もっと手を抜いて、もっと大変なひとのところに行ってあげて、だった。そういうわけにもいかないのだろうし、これもまた「要望」になってしまうのだろうし、複雑だった。

主演のLeonie Beneschは、”The Teachers' Lounge” (2023)でも、明らかに理不尽な事態に正面から立ち向かわざるを得ない小学校教師の役を(頭のなかは悪態まみれだろうに)まっすぐに真剣に演じていて、いつもかわいそうなのだが、こんなふうに真面目であるが故に現場で背負いこむ・ひっかぶる系の役をやらせたら本当にうまいと思う。

エンドロールの手前で、スイスの、更には全世界での看護婦が致命的に足らなくなるWHOの予測値が表示され、そうだろうな、ってなる。先日もBBCでナースへの虐待件数の増加が問題になっているニュースが流れていたが、日本でも相当酷くなっていることが容易に想像つく(表に病院名が出たら絶対まずいのでごくふつうに隠蔽しているのだろう)。

教師と看護婦、介護士は、待遇をよくして層を厚くしないと、社会の底が抜けてほんとうに救いがなくなってしまうよね(もうそうなっているか)。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。