8月16日、土曜日のマチネを、National TheatreのDorfman theatreで見ました。
原作はShaan Sahotaのデビュー戯曲で、2020年のWomen’s Prize in Playwritingにショートリストされたもの。演出はDaniel Raggett。
政治家Angad (Adeel Akhtar)のオフィスから始まる。彼はHarrowとOxfordを出てシーク教系の政治家としてのしあがって、スキャンダルで辞任した野党党首の次を狙えるところまできた。はっきりと表に出さずに控えめだが、この選挙でのチャンスを逃さないようにしよう、とスタッフと一緒に燃え始めたところ。 彼の父親も荷役から身を起こした叩きあげで、スラム街の(闇)不動産王と呼ばれるまでになっていたが、選挙戦を目の前にしたところで突然亡くなった – という通知がAngadのところに届く。
舞台セットは、2人のスタッフ – 広報担当の白人女性と黒人男性 – のいる殺風景な彼の事務所と、そこから奥に広がって、彼の家のゆったりしたリビングを交互に切り替えていく構造。
葬儀で父の死を悲しむのも束の間、亡父の遺産がAngadの二人の妹 - Malicka (Shelley Conn)とGyan (Thusitha Jayasundera)には遺されていないことが明らかになり、父の面倒をずっと見てきた二人はおかしいだろう、生前には平等に分けると言っていたはず、とAngadに詰め寄って、この辺りから彼の様子がおかしくなっていく。
選挙戦は安心できるものではなくて方々を駆けずり回らねばならず、妻 (Dinita Gohil)は身重(後半では生まれている)で、家に戻ってくると妹ふたりが強く抗議してくる。妹たちに対する彼の返事は苛立ちと疲弊と機嫌のなかで二転三転し、まともに相手にされない事態に業を煮やしたふたりは、選挙戦が大詰めを迎えたところで新聞社にこの件を持ちこみ、党大会でのスピーチ直前にこれをでっかく晒されたAngadは…
まずなんといってもAngad - Adeel Akhtarがすごい。カリスマ性がある風貌ではなく、普段はどちらかというとしょぼくれてどんよりしていて、でも政治的な局面のコミュニケーション能力とか手腕はしっかりしているぽくて、そうやってのし上がってきた表の顔が、家族内の紛糾になった途端に鬼の顔となって癇癪を爆発させて手がつけられなくなる。仕事とかでそういう顔に豹変する人が昔は結構いたものだが、これを舞台上でとてつもない迫力で見せられるとちょっとびっくりした。 その爆発のなかで明かされる父からAngadに延々続けられた虐待のことも。でも(長男であるが故に)どれだけ辛い思いをさせられたからと言って、自分がぜんぶ貰ってよいのだ、という話にはならないよね。
こういうことがここまでポジションが上のほうに行った政治家で現実に起こって表沙汰になるケースはそんなにない気がして、他方で世襲や相続における長男への盲目的(まあいいじゃないか)な優遇や文化と歴史の底をえんえん流れてきた女性蔑視 - 日本にもぜったいある –を考えるにはとてもよい材料だと思って。こういうことに立ち向かうのも政治家の役割のはず、なのだが。 ここに移民として苦労してきた家族の歴史を絡めたいのはわかるけど。(苦労話を絡めてごまかそうとする傾向、についてもわかるけど)
でもあの決着はあんなものでよいのか、多分に政治的な風刺として、だと思うものの、実際にありそうすぎて(日本ではあるよね)、黙ってしまうしかなくて、うーむ、ってなる。
建付けがややぎくしゃくしていて、非現実的なところも結構ある(英国人から見たらそうでもないのかしら?)ものの、全体としては怒髪天のAdeel Akhtarが持っていってしまって、見応えはある、そんなかんじ。
8.22.2025
[theatre] The Estate
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