8月1日、土曜日のマチネをNational TheatreのLyttelton theatreで見ました。
NTLでもやっていた”Prima Facie” (2019)のチームがRosamund Pikeを主演に据えて作った新作ドラマ。
原作は”Prima Facie”のSuzie Miller、演出はJustin Martin。
“Inter Alia”は、法律文書とかでよく見られる「これに限定されるものではない」みたいな言い回しで参照される何かのこと。
上演前の舞台の上の方には英国王家の紋(ユニコーンとライオン)のでっかい張りぼてみたいのがぶら下っていて、その下には文書保存用の段ボールが積みあがっていて、その上に置かれたファイルが横にある扇風機の風に煽られて開いたり閉じたりしている。
冒頭、暗転した舞台上でバンドサウンドが鳴り響き、マイクスタンドを抱えてロックスターのように自分の仕事や業績についてシャウトするJessica Parks (Rosamund Pike)の姿があり、左右の袖には太字ゴシックで彼女の言葉をばりばり字幕で照射する。ドラムスを叩いているのは息子のHarry (Jasper Talbot)で、ギターは旦那のMichael (Jamie Glover)- バックのサポートもあるようだが、自分たちで弾いているぽかった – で、Jessicaをバンドとしてちゃんと支えています、と。 演奏シーンはこの後もちょこちょこでてくる。
劇全体が、London Crown Court (刑事法院)の判事であるJessicaの怒涛の、確信に満ちた語りと喋りで突っ走っていって、仕事だけじゃなく日常のあれこれも、彼女の内面の声も含めてすべてがマイクを通して会場全体にでっかく晒されて、それをしても何ひとつびくともしない。自分は正義の使徒であり、文句のあるやつはかかってこい、と。その勢いにあわせて、コスチュームもカツラのついた仕事の法衣の他に家庭での普段着からカラオケクイーンから鮮やかに変わっていって、その華やかで鮮やかな変わり身も含めてRosamund Pikeのほぼひとり舞台と言ってよい。
見ている限りでは、「仕事と家庭の両立」なんて生易しいものではなく、家庭のあれこれも含めて、ぜんぶが彼女の仕事として降ってきて彼女が責任をもち、夫と息子 - 男たちの役割、立ち位置とはJessicaをサポートして、彼女がフルで動きまわれるようにすることなのかな、と。 そして彼ら男たちもそれでよいと思っている。それくらい彼女はすごい能力がある人なのだし、実際に動いていっちゃうし、それなら自分らも楽だし(とは言わないものの)。
いじめから息子のHarryを守るとき、或いはHarryのスマホにポルノ画像を見つけた時のJessicaの反応と対応は正義の味方でフェミニストのそれで、多少戸惑ったりはするものの力強くて頼もしいのだが、Harryに性加害の、レイプの疑惑がかけられた時、それがクロであることがわかった時、彼女はどう動くのか。これまでと同様の毅然とした態度と言動、正しい対応を取ることができるのか?
”Prima Facie”が性加害で訴えられた男性の弁護を専門とする凄腕の女性弁護士が自身の受けてしまった性加害についてはどう対応するのか… という板挟みを描いていたのに対して、この作品は性加害をしてしまった息子を母親である判事はきちんと裁くことができるのか、という事態を描いていて、いろんな点で対照的である。 が、そこをおもしろがる話ではなく、主人公が男性だったら、これらのようなことは起こっただろうか?ゼロとは言わないが、こういう事態に陥る可能性は小さいのではないか? という司法界の男女の非対称性などについて考えるべきなのだ。そして、司法界がこうなら、ここが正したり整えたりしていく(はずの)社会だってそうなっていってしまわないか?と。
この辺は考えなくたって、日本の性加害関連の判例を追っていけば一目よね。司法のせいにするのはフェアじゃない? って言うのかもしれないけど、ここがもう少し裁く側の男女比とか被害者への保護の目線も含めてきちんと機能すれば、っていうのはずっと思っていて、そっちの方であーあ、ってなった。
それにしてもRosamund Pikeのかっこよくて揺るがなくて素敵なことときたらー。
8.08.2025
[theatre] Inter Alia
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