6月29日、土曜日の晩にOld Vicで見ました。
Joe Penhallによる新作戯曲をMatthew Warchusが演出した休憩なしの1時間半ドラマ。
出てくるのはAnna Maxwell MartinとJames Cordenのほぼ二人芝居にあとひとり、の計三人のみ。
James CordenというとLate Late ShowのホストでCarpool Karaokeなどでゲストと楽しそうに歌ったり笑わせたりしてくれるおじさん、くらいのイメージだったのだが、”Ocean's 8” (2018)でちょっと陰険な保険調査員役を演じてて、こんなのもやるんだー、と思ったら、今回のはそのダークサイドが全開になる。
選挙の季節にものすごくはまって考えさせられる会話劇 - 少しアクションもあるか - で、おもしろい。
Monica (Anna Maxwell Martin)は子供がいて忙しいけど夜遅くまで事務所でがんばる地方の国会議員で、セキュリティアラームの設置に来たベンダーのAlex (James Corden)と地元の小学校が同じだったりで意気投合して話し込む。彼はアフガンから戻ってきた帰還兵で、いまは家庭裁判所が絡んだ離婚調停で子供と引き離されていて、どうにかできないか/してもらえないか、って話が進んでいくにつれて、暗くて粘着質なところが徐々に現れてくる。彼の丸っこい身体、人懐こい笑顔と喋り方がゆっくりと恐ろしいものに変わっていく緊迫感がすごい。
Alexは頻繁にMonicaのオフィス - 舞台はずっと彼女のデスクがあるオフィスのみ - に訪ねてくるようになり、裁判所に掛けあってどうにかしてくれないか、政治家なんだからできるだろ?と懇願し、Monicaはまず地元のソーシャルワーカーのとこに行って相談するように、自分にできることには限りがあるし、できないものはできないのだから、と説明するのだが、Alexの耳には届かない。自分は有権者だし税金払っているんだからその分仕事をしろよ! みたいに人格ごと変わってしまったようで、夜中にオフィスが荒らされたりすることもあり、警備員 (Zachary Hart)に来て貰ったりするのだがAlexのほうも必死で…
すこし昔だったらこういう政治家を主人公に置いたドラマは、彼らがいかに蚊帳の向こうであくどいことをやったり考えたりしているか、その欺瞞とか密室での変態ぶりを炙りだすものだった気がするが、このドラマはそうではなくて、(我々がよくない印象を抱きがちな)政治家たちはなんであんなふうになってしまったのか、も含めて別の角度から描いて、それは我々が日々直面している差別や抑圧や社会に対する違和や目線と直結しているのだ、と。(そりゃそうだ、の話でもある)
英国でJo Cox議員が殺された事件を参照しているというが、世界が変わっていくなかで政治のありようも政治家に対する意識、政治家になろうとする人の意識も当然変わってきているので、当然軋轢はあるし衝突は起こるかもしれない – そもそも上下のハラスメントが起こりやすい土壌のうえに、双方がなんで自分ばかりがこんな.. になりがちな、その危惧と構図を非常にわかりやすい例と形で示している。若い女性議員なら言いやすいしわかって貰えるかも、という甘え、戦場で大変な思いをしてきたのに十分に報われていない、という被害者意識、Monicaにしてみればこんなの小学校で習えよ、かもしれない。そして、これらは突然こうなったわけでは当然なく、過去の政治(やそれがもたらした教育)のありようが直接・間接にもたらしたなにかの歪みとその帰結でもあると思う。
とかいろいろ考えたりするものの、大前提としては互いに対するリスペクトがあるべきだし、言葉も含めて暴力だけはぜったいだめだし。それすら守られないのだとしたら戦場とおなじただの地獄だわ。
だからとにかく選挙は本当に大事なんだ、と。自分は行けないけど都知事選、行ける人は行ってね。
音楽は冒頭からThe Smithsの"Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me" (1987)の歌唱部分が爆音で流れてびっくりして、場面転換で暗くなるとまたMorrisseyの歌が続いて、やがて演奏パートのみになる。この曲って、進行と共によりダークに、地獄絵図が浮かびあがるかのように推移していくのだが舞台上の流れとうまくリンクしていた。そして最後のところだけBilly Braggの"Between the Wars" (1985)が流れる。 The SmithsとBilly Bragg… “Jeane”も鳴らしてくれたらー。
それにしても労働党政権下の英国に暮らすことができるようになるなんて。 Keir StarmerはLeedsの大学なので、お気に入りはThe Wedding Presentの”My Favorite Dress” (1987)だそうで、そんな人が首相って、素敵よね。
7.06.2024
[theatre] The Constituent
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