7.26.2024

[theatre] Skelton Crew

7月16日、火曜日の晩、Donmar Warehouseで見ました。

原作はデトロイトの作家、Dominique Morisseauによる”The Detroit Project”という3サイクルの作品群のなかで最後に書かれた作品。米国での初演は2016年、演出はMathew Xia。

グローバル経済の波にさらされ絶対苦境にさらされているデトロイトの工場の殺風景な、骨組みしかないような休憩室が舞台。古いコーヒーマシン、奥のほうに遺物が堆積されたままの冷蔵庫とかいろんな棚、誰がなんのために? のいろんな張り紙、ロッカー。工場のノイズが近くに遠くに頻繁に入ってきてやかましくて、「休憩」するための部屋なのだろうが、工場に来た時と去る時、作業の合間に通過するだけのうす暗いトンネルのようなイメージがある。

ここにやってくる3人の工場労働者 - 年長で経験もあって、みんなに慕われているがタバコを吸ったり態度はそんなによくないFaye (Pamela Nomvete)、妊娠していて明るい将来を夢見るShanita (Racheal Ofori)、不良あがりで将来のことなんてどうでもよさげなDez (Branden Cook) - と、せっせと張り紙をしては全員に口うるさくあたるのでそんなに好かれていないスーパーバイザーReggie (Tobi Bamtefa)の4人が登場人物で、彼ら4人だけ。

休憩室にやってきた彼らがどうでもよい世間話をだらだらしていると、そこにスーパーバイザーがやってきて、またタバコ吸っただろ? などがみがみ言って、みんなで肩をすくめて、彼がいなくなるとまた元に戻る。どの一日も生産ラインと同じくぜんぶ同じペースで動いていって、ある日だけ違っていたらやばい。

そういう中で、家に帰っていないこと - 実はホームレスになっていた - が判明するFayeとか、Fayeのかつての恋人のこととか、喧嘩して顔に傷を作ってきたDezと彼のバッグから見つかったピストルとか、彼をなだめている内に少しづつ近寄っていくShanitaとか、いろんな会話とエピソードが出てくるが、工場閉鎖で解雇とか、ストライキとか、そういう大きな波には向かわない。どこの職場にあってもおかしくない、どこかで聞いた気のする出口のない - そんなもの考えていない - やりとりが、ゆるい空気とリズムと共に描かれて、2幕目ではちょっとエモーショナルになったりもするのだが、それってこのばらばらな4人がいてはじめて生まれる奇跡、その時間のようななにかかもしれない、という気付きがやってくる。

というのと、ほとんどの職場がこんなふうなんだろうな、と思いつつ、いつか、場合によっては簡単に国や会社の都合でもって潰されたり壊されたりする関係 - その非情さや不条理が奥のほうから薄っすら浮かびあがってくるのだった。

音楽はFayeの時代のAretha FranklinとDezの聴くSlum Village → J Dillaがやたらかっこよく鳴る。

観客は9割以上が白人層で、これはしょうがないことなのだろうけど、いつもなんかなあ、ってなる。


Visit from Unknown Woman

7月20日、土曜日の晩、Hempstead Theatreで見ました。1時間10分の一幕もの - 20分くらいしたところで技術的な問題が出たらしく一度中断、10分後に再開。

原作はStefan Zweigの1922年の中編小説『未知の女の手紙』 - 映画化作品だとオフュルスの『忘れじの面影』(1948)(見ているはずだがどこかで忘れじでなくなっている)とか、中国でも2004年に映画化されている(未見)。 脚色はChristopher Hamptonでタイトルも”Letter from an Unknown Woman”から少し変更されている。演出はChelsea Walker。

舞台は1934年、中年作家のStefan (James Corrigan)がいて、ある晩、フラットにMarianne (Natalie Simpson)と名乗る女性を連れて帰ってきて、いろいろ会話してひと晩を過ごし、朝になって召使が現れたところで彼女は去っていく。別れ際、Stefanが彼女のパースに忍ばせたお金を彼女はそっと召使に返す。

そこからだいぶ時間が過ぎて、Marianneが再び彼のフラットに現れて、自分が幼い頃から、彼の隣の部屋に住んでいて彼のことをずっと見ていたのだとか驚くべきことを語り始める… そのセットの周りには彼女がStefanに送った白いバラ(の残骸)が積まれ、若い頃のMarianne (Jessie Gattward)がその山の周りをゆっくりとまわったり佇んだりしている。

オーストリア系ユダヤ人であるStefanにとって、ナチスの台頭が彼の足下を揺るがし活動を不安定にさせるその反対側というか思いもよらないところで、ひとりの女性がずっと彼のことを見つめて追っていた、と。今ならストーカーのお話し、で片付けてしまえるのかもしれないし、Stefanはそんなに気がつかないままでいられたのか、とか、Marianneは彼の姿を目で追うだけでそんなに恋をしてしまうものなのか、とか、いろいろ思うのだが、戦争の影が覆い始めた頃の社会不安など、うまく繋げれば”Unknown”のありようとその説得力も増したかもしれないのに、ちょっと弱くなってしまったかも。

でもその弱さもまた.. で、全体としてはとてもよい一枚の絵を見たかんじになった。

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