9.18.2024

[theatre] The Real Thing

9月12日、木曜日の晩、Old Vicで見ました。
原作はTom Stoppardの1982年の戯曲。演出はMax Webster。 “rom-com”って宣伝していたので、見ようかな、って。

舞台は明るくシンプルなリビング仕様 - 壁の青が印象的で、真ん中にソファ、周りに引越し前なのか引っ越し後なのか、いろんなサイズの段ボールがいっぱい積んであり、セット替えの際には配送員の恰好をしたスタッフが入れたり出したりおきかえたりする。ソファは場面によっては列車の椅子にもなったり。 中央上部にはネオン管で形づくられた”The Real Thing”の文字が掲げられていて、このタイトルが一定間隔を置いてばちばち、って音をたてる。 舞台の真ん中前方の床には小さなレコードプレイヤーがひとつ。

冒頭、中央に歩いてきたスタッフがレコードプレイヤーにレコードをかける。The Crystalsの”Da Doo Ron Ron”で、最初はプレイヤーの前で小さく鳴っていた音が場内全体にふわっと広がる - 場面切替はずっとこのかたちで、2幕目のオープニングはELOの”Mr. Blue Sky”だし、エンディングはMonkeesの"I'm a Believer"だし、あと、"You've Lost That Lovin' Feelin'"が大事なところで使われている。

最初はMax (Oliver Johnstone)と愛人のCharlotte (Susan Wokoma)が部屋で会ってデートしている現場で、Charlotteは劇作家のHenry (James McArdle)の妻で、でもこの場面はHenryの書いた劇中劇であることがわかる。「現実」に戻ってみればHenryはMaxの妻であるAnnie (Bel Powley)と付きあっていて、他にもAnnieが思いを寄せる年下の活動家のBrodie (Jack Ambrose)のこととか、Henryの書き物や妄想、それらの入れ子構造を超えたところで、各シーンの男女のいまの関係を巡るやりとりはひとりでに暴走していくようで、そのうちAnnieはHenryのところで一緒に暮らすようになる。 基本は、劇中であろうがリアルであろうが、劇作家であり、ほぼずーっとソファに座ってパンツ一丁になったりしつつべらべら喋る - ちょっと傲慢な物言いが鼻につくHenryが思っているような方に、男女の関係はうまく流れていってくれない。

ところどころチリチリしたノイズが挟まるものの、全体としては明るく軽いポップなトーンのなか、各自の止まらない勝手なお喋りと安易な融和とかハッピーエンディングを許さない、でも誰も傷つかないようなストーリーを浮かびあがらせる(のは誰?) - ”The Real Thing”。

当時出たばかり(?)の日本製のデジタル時計とかVHSへの言及が出てくる - 合間に流れるポップソングも含めてこれらはunreal的ななにか? - ようにやはり80年初のお話し、ということでよいのか。愛とか忠誠とか奉仕を信じていると軽く言ってみて、あっちこっちで簡単にくっついたり離れたり、無関心を装ったり、”The Real Thing”なんてなにひとつ信じないで好きなようにやって勝手に裏切られたり見栄を張ったりして浮かんでいたあの頃へのノスタルジア(?)。 90年代の洒落にならない”Real”の暴風をぬけて干支を二回転して、ふたたびこれらについて語ろうというのか? しめしめしたノスタルジックな要素はゼロだし、これはこれでおもしろいからよいけど、いまだに”The Real Thing”とか信じてる?効くと思ってる? 段ボールで搬送可能ななんかじゃないの? など。

真ん中の2人 - James McArdleとBel Powleyの重力をどこまでも回避しようとする演技がすばらしい。 振る舞いに男らしさ、女らしさ、なんてのがまだ残っていた頃の、でもエモいのはまっぴらごめんなありようを見事に演じていた。

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