9.02.2024

[film] Lone Star (1996)

8月18日、日曜日の午後、BFI Southbankで見ました。監督と撮影のStuart Dryburgh監修による4Kリストア版のRe-release。

上映前に監督のJohn SaylesとプロデューサーのMaggie RenziのRecorded Introが流れる。John Saylesがすっかりおじいさんになっていて少しびっくりした。異文化が混在する土地のありようと時間の流れを並べて表現していくのは難しいテーマだったが、今でも楽しんでもらえると思う、と。 うん、すばらしいパワーを持った作品だと思った。
 
日本では劇場未公開で、ビデオスルーだったのか邦題は『真実の囁き』。 80-90年代のIndependent を経由してきたアメリカ映画で、John SaylesってJim Jarmuschと同じくらい重要だと思うし、好きな作家だったの。
 
テキサス州の架空の小さな町Fronteraで保安官をしているSam (Chris Cooper)がいて、町の外れの原っぱで金属探知機を抱えて宝探しをしていたふたりが警官の”Lone Star”のバッチをつけた骸骨を掘りだした現場にいて、彼にはその骸骨を見て浮かんできたり思い当るところがあるらしく、考え込んでしまう。
 
そこから時代はSamの父Buddy(Matthew McConaughey)が保安官をしていた時代にいきなりスリップして、そこでの見るからに強権的な人種差別主義者の警官Charlie Wade (Kris Kristofferson)の野卑でゲスな振る舞いが映しだされ、Samはこの骸骨がBuddyによって撃ち殺されたCharlieのものではないか、と思い、あまり浮かない顔で当時を知る人 – Charlieの傍にいた警官で、いまは市長になってよい暮らしをしているHollis (Clifton James)とか - に聞きこみを進めたりしていくなかで、Samの目から見たコミュニティの過去と現在が浮かびあがってくる。
 
Samの高校時代の恋人だったPilar (Elizabeth Peña)のかっちりした移民の母Mercedes (Míriam Colón)が経営するメキシカンレストランのこと、アフリカ系アメリカンのOtis Payne (Ron Canada)が経営するバーにももちろん染みこんでいる人種差別のエピソード、それらを乗り越えて立派な軍人となった息子のDelmore (Joe Morton)のこと、そしてSamの別れた妻のBunny (Frances McDormand)はフットボール狂いの典型的な白人アメリカンであり、Samもそれは自認している。
 
町全体にCharlieのような差別野郎が支配する重苦しい空気があったかというとそうではなく、どちらかというとラティーノの陽気さや見て見ぬふりの連続でどうにか今日明日をやり過ごしていく、よくある観光の町のイメージそのままだったりするのだが、それでも誰かが、誰もが脛に傷をもった状態、どこかの傷のありかを知っている状態と共に日々を送っていて、そんななかに現れた乾いた骸骨とLone Starのバッチは何を語ろうとするのか。なんて面倒なものを掘りだしてくれたことか、って。
 
こんなあれこれをどうやってストーリーとして組みあげていったのか - 大昔に読んだStuart Woodsの『警察署長』(1981)とかJohn le Carréの小説を思わせる - 小説なら俯瞰して構成を組み立てることができそうだけど、映画として見せていく - 章立ても時間/時代に関する字幕も言及もなく映像の連なりのみで – って難しい気がして、ただこれらをSam - ものすごく職業倫理や正義感やpolitical correctness に燃えているわけでもない - どちらかというと諦め疲れている保安官 - の視点から描くことで、そこに棄てられ地にまみれて埋められていた”Lone Star”というタイトル/職位を置くことで、生々しく浮かびあがってくるなにかがあるような。

例えばRobert Altmanのアンサンブル・ドラマだったらもう少しおもしろおかしく「衝突」や「摩擦」を、その顛末や因果応報を描いたかもしれないが、このドラマの登場人物たちは決してアンサンブルに身を委ねようとはせず、それぞれがそれぞれの過去たちと向きあってそこで自閉している - それをできてしまう俳優たちのすばらしい演技。 ここで描かれたSamの倦怠や困惑はだからどうしろっていうんだ? という骸骨を見つけてしまった我々のそれに直結していて、そこから過去のあれこれが芋づるで連なってやってくる - その重みとどうやって過去の人々と向きあうのかについて。


もう9月だなんていいかげんにして。

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