9.09.2024

[film] Brief Ecstasy (1937)

この秋、日本でやっている映画の特集もいろいろあって羨ましいが、こっちの9~10月の特集もてんこ盛りで、そのうちのひとつが、BFI Southbankでの”Martin Scorsese Selects Hidden Gems of British Cinema”。 わたしはMartin Scorseseの監督する映画よりも、彼が語り部となっておもしろい!って選んでくれた映画を見るほうがより好きで、彼と英国映画というと、見なきゃ見なきゃと言っているうちに終わっちゃったドキュメンタリー ”Made in England: The Films of Powell and Pressburger” (2024) - 彼はプロデューサーとして参加 – のPowell & Pressburgerがまず来るのだが、この他に頼んでもいないのに口を挟んでくる昔の英国映画への愛の籠った言及はいっぱいあり、今回はその拘りを彼とEdgar Wrightが中心となって20数本選んだもの。 BFIのサイトにその経緯があるが、Covidで隔離生活をしていた時にEdgar Wrightが英国映画のお薦めをMartinに聞いてみたら50本選んできた、って。 ほとんどがBFI Archiveが保持するフィルム(1本ナイトレートフィルムでの上映あり) での上映で、たぶん全部は追えないけど、できるだけがんばって見たい。ぜったいおもしろいから。

Brief Ecstasy (1937)

9月3日、火曜日の晩、BFI Southbankで見ました。
69分の短い作品。監督はフランスのEdmond T. Gréville。日本公開はされていない?

Helen (Linden Travers)がひとりお茶していたら、誤ってこぼしちゃって寄ってきたJim (Hugh Williams)がいて、Jimはお詫びとカフェでの忘れ物を口実に彼女に寄っていき、ディナーでも、って誘ってその晩ダンスして一緒にいたら恋におちて、彼は付きあいたいって言って彼女もイエス、なのに彼は明日に海を渡って戦場に旅立ってしまうのだと。

月日が流れて、Jimは戦場から会いたい結婚したい、って熱烈な手紙を送るのだが、掃除婦が紙くずとして捨てちゃって、彼女は勉強していた大学の教授Paul (Paul Lukas)からアシスタントになってほしいと請われて、そのままなんとなく彼の妻になって、学業から離れた家事と社交中心の日々になる。

で、戦地から帰ってきたJimのしばしの滞在先となったのがPaulの家で、そこでふたりは再会し、目一杯よそよそしく他人として接しようとするHelenと、こんな歳の離れたじいさんと一緒になるなんてどういうことだ? のJimの裏表の駆け引きがおもしろいのだが、だんだんに溢れてくるふたりの思いは隠し切れなくなり、なんかおかしいと思ったPaulとPaulの家でずっと彼に奉仕してきた家政婦がぜんぶぶちまけちゃって、拳銃もちらちらして、さてどうなる? 

運命の悪戯を楽しむ、というより押して叩いて引っこめても出てきてしまう感情と欲望のままならなさとしょうもなさを切々と追っていて、この長さで丁度よく纏まっているかんじ。


This Happy Breed (1944)

9月6日、金曜日の晩に見ました。
原作はNoël Cowardの同名戯曲 (1939)で、プロデュースもしている。監督はDavid Lean。きれいなテクニカラー。邦題は『幸福なる種族』(種族って..)。

オープニング、ロンドンの町の空撮の背後に”Take Me Back to Dear Old Blighty” - The Smithsの”The Queen is Dead”の冒頭に聞こえるあの曲 - が流れてくるので、それだけでなんかうれしい。

第一次大戦のすぐ後、ロンドンの南の方の住宅地に越してきたGibbons家 - Frank, 妻のEthel、Frankの姉、Ethelの母、大人になっていく彼らの子供たち3人と、たまたま隣に暮らしていたFrankの戦友のBobの一家も交えた悲喜こもごも、第二次大戦に向かって社会がきな臭く動いていくなか、子供たちが大きくなってそこを出て、自分たちも出ていくまで。出会ったりぶつかったり喧嘩したり出て行ったりの日々と感情のゆらめきを描いてすごくよい。

当時の英国社会の温度湿度を知っているわけではぜんぜんないのに、ここに見えてくる・感じられるあれこれは、成瀬の『流れる』 (1956)などを見た時に湧いてくる感情に近いものがある。みんな流れていってしまったけど、流れていったのを知っているけど、みんなそこにいたよね.. って。

昔のロンドンの映画によく出てくる家の裏庭みたいな狭い路地みたいなところ、いろんな人たちが顔を出す家の出入り口から、そこに抜けていく風景 – その向こうに広がっていく世界、その見晴らし – たまんなくよい - のなかで、みんながみんなのことを気にしたりグチ言ったり涙を流したり、延々そればかりやってて、誰もが自分の親戚にいる誰かを思い起こすにちがいない..

終わってすごい拍手が湧いていた。これだったらそうなるかもなー って。

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