9.13.2024

[film] 客途秋恨 (1990)

9月7日、土曜日の晩、BFI Southbankで見ました。

ここの9-10月の特集で、” Maggie Cheung: Films of Romance, Melancholy and Magic”というのも始まっていて、彼女のフィルモグラフィから” Illusory Lives”、“A Match Made in Hong Kong”、” Migration Stories”、”Action and Wuxia”というセグメントに分けて10数本が紹介される。 この秋のBFIは、これと“Martin Scorsese Selects… ”と” Roots, Rituals and Phantasmagoria”でお腹いっぱいすぎる。LFFもあるし。映画以外にもあるし。

これは” Migration Stories”からの一本で、英語題は”Song of Exile”。よいかんじの35mmフィルムでの上映だった。広東語、英語、北京語、日本語が飛び交うので字幕は二階建て。 監督は許鞍華 - Ann Hui、製作総指揮にはキン・フーの名前がある。

70年代のロンドンの大学で友人たちとメディア関係の勉強をしていたHueyin (Maggie Cheung)はBBCとの採用面接に落ちて、ほぼ同時に母Aiko-葵子 (Lu Hsiao-Fen)からHueyinの妹の結婚式があるので香港に戻って来れないか、という手紙を受け取る。初めは行くつもりもなかったのだが、面接に落ちてあーあ、でもあったので戻ることにする。

香港で妹の結婚式の準備を進めて、母や親族と再会したり話したりしていくなかで子供の頃の母のことなどがランダムにフラッシュバックしていく – この記憶が誰の視点によるものなのかがはっきりしないのだが、日本人である母が不在がちの父の両親や親族に溶けこむことができず、Hueyinは父の両親–祖父母ばかりに懐いて家族内で母ひとりが孤立していく様が描かれる。結婚式用に髪をばっさりされて70年代ふうおばさんパーマをあてられてかわいそうなHueyinは、結婚後に夫とカナダに移住するという妹もここを離れると、自分はこの土地でひとりになるのでこのタイミングで実家のある日本に戻ってみようと思うけど、来る? って母から誘われて、やはり悩むのだが彼女がちょっと寂しそうなのが気になってついていくことにする。

船~電車の窓から日本に来たことがわかる – のはなぜ?- とにかく南由布という駅で降りて、迎えに来ていた葵子の甥に迎えられて、お腹が減っているでしょう、と食堂に入って、いきなり天ぷらそばと山菜そばと豆腐を頼んでしまう葵子とか、あの程度の魚いっぴきで自慢しちゃうのか、とか、日本語がいっさいわからないHueyinから見た不思議の国にっぽん、の描写については、いろいろあるだろうけど、まあよいとして、日本–別府での母が中国で自分の知っていた彼女とはぜんぜん違って、ふつうに子供時代があり – 昭和の頃のアルバム写真の類似性ってなに? - 同窓生がいて、かつて「荒川さん」という男性をめぐる恋敵がいたこととか、実弟と絶縁状態にあったこととか、家の売却を巡ってごたごたがあったりとか、いろんなことを知り、お墓参りをしてお祭りに参加して、母の口から知らされることのなかった「彼女の国」を経験する。そしてそれは彼女の母が自身で思い描いていたいつか帰る先としての故国、とも少し違っていたらしい。

この後、葵子とHueyinがどこでどうするのかについて、葵子と夫(Hueyinの父)が戦地の中国でどんなふうに出会ったのか、まで遡って描かれるのだが、どの国で生きるのか、それはなぜか、というよりも、どの国にも帰属しない、できないような、そういうステートがきちんと描かれていて - 監督の自伝的なところもあるそうだが - そこはなんだかとても考えさせられるものだった。法的なのとは別に、帰属しなくて済んでいられる今の自分の自国の外にある状態、あるいはこないだ見た”Bye Bye Tiberias” (2023)のように、戻るべき場所がなくなってしまった状態もあるし、自分も先送りしているうちに老いてしまってよいのか、別にいいや、って最近は開き直っている。

そして自分はもちろんだが、国もまた変わっていくもの – しかもどちらも確実に悪い方に - なので、とにかくうまくどうにか生き延びることができればいいかー、くらいで。

あと、食べものは大きいよねー。葵子が「食べものはいつもあつあつじゃないとね! 」って言うのなどを聞いて。

このHueyinが『花樣年華』(2000)のMrs. Chanとなって、出張先の日本で浮気をする夫を見つめていたりしたらおもしろいかも、とか。

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