9.09.2024

[theatre] Next to Normal

9月4日、水曜日の晩、Wyndham's Theatreで見ました。

ロンドン公演は、昨年にDonmar Warehouseで上演されたのをWest Endに持ってきたもので、アメリカでのミュージカルとしては2008年からあったのか、と。(すでに世界中で上演されていて日本公演もあった、なんて知らず.. )

2009年に3部門でトニー賞を、2010年にはドラマ部門でピュリッツァー賞も受賞している。

音楽はTom Kitt、歌詞と脚本はBrian Yorkey、演出はMichael Longhurst。
ロック・ミュージカル、だそうで、でも感情の爆発や混沌を表現するところはそうかも、くらいで、がんがん盛りあげて拳を振りあげる系のとは違う。”Tommy”あたりに近いのかも。

ちゃんとしたふつうの家庭のダイニング - 壁にはBAUHAUS (建築デザインの-)のポスターが掛かっていて、2階には個室が3つあってバンド - 6人編成 - がいるのが見える。

オープニングもごくふつうの一家の朝の風景から入って、Diana Goodman (Cassie Levy)が長男のGabe (Jack Wolfe)の朝帰りを待って、長女のNatalie (Eleanor Worthington-Cox)と挨拶して、夫のDan (Jamie Parker)とはセックスしたくなった、って奥の部屋で朝からやったり、テンションの高いママだなーと思っていると、床にパンを並べて盛大にサンドイッチを作りだした - 家族は止めに入る - ので彼女はノーマルではない人で、bipolar disorder - 双極性障害でずっと医者(Trevor Dion Nicholas)にかかっていること、更にGabeはNatalieの幼い頃になくなっていて、彼女の想像のなかだけで生きていることを知る。

そこから先は良くなっているのか悪くなっているのか、どこに向かっているのか先の見えないDianaの治療の行方 - 本人にとっても家族にとっても苦しい – を追いつつ、家族にとっての”Normal” – 病気や障害から解放された状態ってなんなのか、を考えさせる内容のものになっている。異常な行動や言動がなくならない限り病が治ったとは言えなくて、治すためには薬や治療が必要で、それは本人にも家族にも苦痛をもたらす – そして効果があるように見えたある薬による治療が、Dianaの過去の記憶をなくすことで効果をもたらすのだとしたら… でもそれが彼女の記憶からGabeのことを消してしまうことに繋がるのだとしたら..

アメリカの精神病治療が異常行動を矯正して正常な社会活動をさせるためにロボトミー手術とか、相当に荒っぽいこと、人を人として扱わないようなことを平気でしてきたのを - 映画や文学のレベルだけど - 知っているので、このステージ上で医師が悪魔のように描かれていることもわかって、Dianaや家族の大変さよりもなんでそこまでやるのか、やることが許されてしまうのか、そっちの方に気が向いてしまうのだが、終盤、やはりGabeの記憶は消されちゃいけない、消すことができないものだよ、ってみんなが思って、そう思うことで少しよくなったかな? くらいの。Normalじゃなくたって、Next to Normalでいいじゃん、って。

本公演前のワークショップに時間を費やしていることからも、ストーリーの中心にある治療のありようについては、十分な議論がなされたのだと思うし、自分の周囲の人たちはみんな泣いていたので汎用的に訴えかけてくるものになっている、とは思った。けど、その反対側で、こういうふうに示されたり消費されたりする「汎用性」みたいなのってなんなのか、これでよいのか? っていうのはいつも思う。”Next to Normal”も、そういう括りがされた時点で”Normal”と同類のなにかになってしまう、と。

昭和の終わり頃に「フツー」と「ビョーキ」っていうレッテル貼り?仕分け(いまだとタグ付け?)が流行ったことがあって、あれってそういう仕分けがいかに根拠のないくだんないものであるかをバカにするためのものだったと思うのだが、いまだにそういうのに熱中して拘る人たちが一定数いる – むしろ内面化・細分化が進んでより多くの人たちがそこで悩んだり病んだりしている?というのは感じるかも。 家族の外にいる人でNatalieのBFになるHenry (Jack Ofrecio) ってちょっとぼんくらなかんじの彼が出てくるのだが、彼みたいな人がいてくれるとよいのだけどなー、とか。

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