9.24.2024

[film] My Favourite Cake (2024)

9月17日、月曜日の晩、BFI Southbankで見ました。

作・監督はイランのMaryam MoqadamとBehtash Sanaeehaの共同で、国はIran/France/Sweden/Germanyの共同となっている。

ベルリン映画祭でプレミアされ(ここではFIPRESCI Prizeを受賞)、そこに向かう直前にイラン当局が監督2人のパスポートを没収して出国を阻止して、その6ヶ月前には彼らのオフィスでハードディスクが没収されている。

日本で公開されるか知りませんが、このタイトルなのでまたふわっとした邦題でかわいらしくプロモーションされる(どーでもいいけど、あれら本当に気持ちわるいわ)のかもだけど、内容はとても過酷でシリアスな – つまりこれが現実 – ってやつだし、この内容が当局に厳しく検閲、弾圧されている、ということはどういうことか、映画を売る前に考えてほしい。

映画のなかでも”morality police”が町のそこら中にいて、ヒジャブが正しく着用されていないことを注意しまくるのに主人公が文句をいうシーンがあるが、日本の理不尽な学則とか教育委員会のあれと似ている。中にいて慣れてしまうと今の目の前のことがどれだけ異常か見えなくなるあたりもー。

テヘランの郊外、70歳で夫に先立たれてずっと住んでいる家にひとりで暮らすMahin (Lily Farhadpour)の日常が描かれる。

彼女は太っていて寝たり起きたりの動作も大変そうで、どこかで見た何かに似ている.. と思ったらマツコの体型かも。服もあんなふうだし。

昼頃に海外に暮らす娘からの電話で起こされるシーン - 夜はなかなか寝付けないのでほっといて - に始まり、がらんとした家で食事の支度をし、それをひとりで食べて、庭の植木に水をやり、市場に買い物に行って、道端でポリスに虐められている女性を助けたりする。 たまに定期的に会っている友人たちをランチに呼んで世間話をする。 夜になるとメイクを - 青緑のアイラインとか試してみて、割と似合っているのだが、ひと通りやった後に拭き取って溜息をつく。

ものすごい面倒とか困難があるわけではない、大きなドラマがやってくるわけでもない(そういうのがあるならくれ、の)日々が、彼女の背中とか表情を通して綴られていく。ドキュメンタリー、と言われてもそのまま納得して見れてしまうくらいの平熱感。

ある日、おめかしをして高級そうなホテルのティールームに行って、一人で席に通されて、でもなんかいたたまれなくなって、年金受給者のクーポンが使える町の食堂にいく。

そこでは自分と同じような年寄りが仲間同士で楽しそうに食事をしていて、でもそこから離れてひとりで食事をしている男性に目がいって、食堂から出た彼を追って話しかけてみる。

それがFaramarz (Esmail Mehrabi)で、Mahinはタクシー運転手をしている彼の車に乗りこんで、いろいろお喋りをはじめる。元軍人で、いまは一人で暮らしているという。なんとなくよい人っぽいので、Mahinは彼を家に誘ってみると、彼は少し戸惑いつつもタクシーを家の近くに停めて素でやってくる。

Mahinの方は服を着替えて、ワインを注いでつまみをだして、壊れていた庭の電気を修理してもらい、オーブンに火をいれてケーキを焼いて、一緒に歌って踊って、携帯で一緒の写真を撮って、(これは予告にもあるシーンだが)「死ぬのはこわくない」 - 「ひとりで死ぬのがこわい」とFaramarzは言う。

このふたりがここからどこに向かうのかは書きませんが、あの結末がなくても、ここまでだけでも老いてひとりで暮らすことについての見事な描写と省察になっていると思った。携帯で撮ったふたりの写真、そしてラストのMahinの後ろ姿が。

福祉や社会保障がどう、という話も少しはあるけど、そこではなくて、人はやがてひとりで死ぬのだ、人がひとりで死ぬというのは例えばこういうことなのだ、というのを切々淡々と。

救いも癒しもない。それはもう自然現象に近いことでもあるので、恐れても怯えてもしょうがないし、迷惑はかけたくないとか心の構え、なんて言っても無理なところは無理だし、結局そこに向かってどうする? になるのだが、そこに向かっているのは間違いなく今のこの瞬間の、この自分でもあるのだ、って。軽い話ではない、けど重く考えたところでどうなる? で、いつも固まってすべてが停止する。

そういうのを考えさせないようにしてひたすらビジネスとか利便性とかの方に優先順位を置こうとする今の社会の代理店化にはもうほんとうんざり。

映画は、とにかく真ん中のふたりが本当にすばらしいので見てほしい、しかない。

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