9.03.2024

[film] Between the Temples (2024)

8月25日、ドイツから戻ってきた日曜日の夕方、Curzon Bloomsburyで見ました。

監督はNathan Silver、脚本は監督とC. Mason Wells - Joe SwanbergとかAlex Ross Perryといったアメリカのインディーズの流れにある - との共作。 撮影は”Good Time” (2017)や”The Sweet East” (2023) ←監督もしている - のSean Price Williams。

フィルムの色味が、こないだのAlexander Payneの”The Holdovers”(2023)にもあった暖かみのある70年代アメリカ映画ふうのそれで、だめでどん底に落ちた男がじたばたして最後はどうにかなるやつ - この映画もそうで、この傾向ってどういうもんなのか。

ユダヤ教のカンター(歌手・詠唱者)であるBenjamin Gottlieb (Jason Schwartzman)は40を過ぎて妻を亡くしてから人前で歌えなくなって、信仰心まで揺らいでくるくらいの危機に襲われてパニックを起こし、道路に寝転がって車に自分を轢け、って喚いたりしてアーティストの母とレスビアンのパートナー(不動産屋)が一緒に暮らす実家に戻ったりしているのだが、バーで酔っぱらって男に絡んで殴り倒されたところで、そこにいたCarla(Carol Kane)に助けられる。 CarlaはBenの小学校の音楽の先生だったがCarlaはBenのことをあまり覚えていなくて、でもそれをきっかけにふたりで会うようになり、CarlaはBenが教会で成人式を迎える子供たちに歌を教える教室に現れて、自分が子供の頃に叶わなかったBat mitzvah(ユダヤ教の成人式)に向けて勉強したい、という。

こうしてふたりのどこに向かっているのか向かいたいのかわからないたどたどしいつきあいが始まり、Benは自分のBar mitzvahの時のビデオを見せてあげたり、Carlaの息子の家族は、母を訪ねてきたら知らない中年男が自分のパジャマを着ているので混乱したり、Benの母(たち)は、新しいパートナーをくっつけてみれば、とラビの娘のGabby (Madeline Weinstein)と会わせてみて、Gabbyは作家だった亡妻の本を読んで感動した! って変な空気になったり... 

誰もが参照としてあげている”Harold and Maude” (1971)ほど痛ましくも切なくなったりもしなくて、全体としてはどこに転がるのかわからないコメディで、どこかしらSteve Carellに似て見えるJason Schwartzmanの予測不能な挙動を楽しむ、でよいと思うのだが、それでもCarlaが脳卒中で倒れてしまったり、Benが亡妻のボイスメッセージを携帯に何百通も溜めこんでいたり、何もかもよくない方に転がっていくので安息どころではなくなる安息日のディナーとか、宗教がひとつのテーマになっているドラマとしてはおそろしく不安とか不穏に満ちていて、それがTempleの狭間、ということなのか - 戒律で統御されたパーフェクトな世界とそれが実現されているはずの現実界と、両者の断層をまじめに、かつ不器用に渡ろう埋めようとしている人々のおかしみ、というか。 

Jason Schwartzmanがよく現れるWes Andersonの世界もこれに近いかも - デザインがきちんときれいに整えば整うほど、そこから変にはみ出す人々が大量に湧いてでるという.. なんでこうなっちゃうのか? という問いに神さまはどう応えるのか。

ガザ攻撃以降、ユダヤ・ジョークって1mmも笑えないものになってしまったが、ガザ攻撃以前に撮られているこの作品は、宗教というより宗教という鏡が映しだす歪んだ何かとか、そこに歩み寄る途中の躓き – みんななんであんなに揃って転がって横たわってしまうのか – などが至近距離で撮られていてとてもよいと思った。

そしてなんといってもCarol Kaneのかわいらしくて素敵なこと! 彼女の方に駆け寄っていくむくんだ哺乳類みたいなJason Schwartzmanを見るだけでなんかよいの。

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