9.06.2024

[film] His Three Daughters (2023)

9月2日、月曜日の晩、Barbican Cinemaで見ました。
今週末からの公開に向けたPreviewで、上映後に監督Azazel Jacobs、長女を演じたCarrie Coon、次女を演じたElizabeth OlsenのQ&Aがあった。 Netflixなのでそのうち日本でも見れるかも。

作・監督はAzazel Jacobs、撮影はSam Levy – NYの片隅の風景(だけじゃないけど)を撮らせるとこの人はなんでいつもこんなによいのか…

長女のKatie (Carrie Coon), 次女のChristina (Elizabeth Olsen), 三女のRachel (Natasha Lyonne)が議論をしている切り返しから始まる。
昏睡状態のまま病院から自宅に戻ってきた父Vincent (Jay O. Sanders)の看護(と最後を看取る)のためにKatieとChristinaはこの実家にやってきて暫く滞在する。Rachelは父の面倒を見るためにもともと彼と一緒に暮らしていた。

Katieは冒頭の会話の様子だけでも十分にしっかり者でてきぱき引っぱっていく「長女」の典型で、ChristinaはKatieよりは物腰柔らか穏やかで誰ともどうとでもするからへっちゃら、の次女のかんじで、髪をオレンジに染めたRachelはいつもタバコを吸って落ち着かず何を考えているのかわからなくて、姉たちからは異端者の目で見られどつかれていて、でも本人はうるせー知るかよ、って動じない。 

3姉妹の話題と関心の中心にある父の姿は見えない。奥の部屋で生きていることを知らせる機器装置のビープ音だけが彼で、彼女たちは彼にもっと生きてもらう、彼が生きていることを確かめるためにここにきた、というよりは、DNR(do-not-resuscitate)蘇生処置拒否のこととか、その時にどう備えておくか、彼の死に向かって自分たちがなにをどうするのかについて「決めるのはあなたたちですが」を連発する看護士と話したり、3人で協議するためにやってきた。先にあるのは父娘間の - 場合によっては姉妹間にとっても - 決定的な最期の別れ、しかない。

でも実際には、まだ死んでいない彼を前にそんなことはできないしすべきではないし、じゃあなんでここにいるのか、の周辺をぐるぐるまわって、矛先はうだうだしているRachelに向いたり、やってきたRachelのBF – Vincentとはリビングで一緒に遊んで過ごしていたりしていた – のことで目くじらを立てて喧嘩したりしして、その度に父の寝ている奥の部屋が映しだされてみんなふと我に返ったり、の繰り返し。

場内であちこちすすり泣きが起こっていたが、これは我々自身の身にふつうに起こること起こったであろうことを異様な生々しさで精緻に追ったもので、それを三姉妹の絶妙としか言いようのないキャラクターの置き方でひとりひとりに考えさせる内容のものになっている。多少のじたばたがあったりするものの、キーとなるような大事件も奇跡も起こらないまま、登場人物がなぜあんなことを言ったのか、なんでああいう行動に出たのか、などが徐々にじんわりと来て、これってそういえば… とか。 こういうのって日本の昔の家族ドラマのほうがはまる話のような気もするけど、べたべたにウェットなのになりそうでちょっとー。

この会話の運びと小競り合いの連なりなら演劇の方がフィットしたのでは? という質問はQ&Aの時にも出たのだが、部屋と部屋の間の距離感、暗がりや光の当て方、アパートの外の駐車場の様子とか、どうしても映画として撮りたいものがあったから、というのが監督の答えだった。 101分、もうちょっと絞ってもよかったかもしれないが、これは映画でよいのかも。

ネタバレになるのであまり書きませんが、最後のほうでややびっくりなことが起こって、それが全体をひっくり返すことにはならないものの、タイトルが”His” Three Daughtersであることがよりくっきりと浮かびあがる。 全体の流れのなかではやや浮いている気もするのだが、それでも抽象的なかたちではなく、目前の死と向き合うというのは双方にとってこういうことなのか、というのが示されて、改めて自分のことを振り返ったり。 これが”Her Three Sons”だったらまた別のかたちになるだろうな、とか。

帰り、シアターから地上に向かうエレベーターに乗ったらたまたま、Carrie CoonさんとElizabeth Olsenさんと一緒の箱になって、すこしどきどきした。

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