8.26.2024

[theatre] I Want Absolute Beauty

8月24日、土曜日の晩、ドイツのBochumで開かれているRuhrtriennaleっていうアート・フェスティバルの会場 - Jahrhunderthalle Bochumで見ました。

公演が発表になってチケット発売直後の4月に衝動で取ってしまってからどうするんだよBochum行くのか? って400回くらい自問自答を繰り返し、だらだら飛行機とらねばホテルをとらねば、これの他にどこで何するのか、などを考えたり - するのが面倒でいつも直前でばたばたして泣いたりする。フェス行く時にも思ったりするが自分は旅人ではないのかも。

作・演出は同フェスティバルのアート・ディレクターであるIvo van Hove(IvH)、音楽はPJ Harvey (PJH)、主演はSandra Hüller、事前の情報としてはこれくらいで、当日会場に着いて無料の冊子を見ておおよそのことを知る。

PJHはIvHの舞台”All About Eve” (2019)や、こないだのNational Theatreでの”London Tide”でも音楽を担当しているのだが、これらは全部その劇作用に書き下ろしたものだったのに対して、今度のはPJHの既存の曲を26曲、IvHが選んで、それを並べてストーリーを作って、タイトルの”I Want Absolute Beauty”もIvHが考えた、と。

PJHの曲を全て聴き直して浮かんだタイトルが”I Want Absolute Beauty”だった、というIvHに対して「そうかも/よいかも」程度の軽さでPJHは冊子の対談で返しているのだが、そうかなー? くらいのことは思うし(まだ考えている)。

会場はでっかい倉庫のようなとこで、ゆるやかに見下ろす形の客席の最前から舞台の奥まで20mくらい? 茶色の土がべったり敷きつめられていて、一番奥に4人編成バンドの機材が組まれていて、その奥の壁はミラーなのだが、客席からは遠すぎて映っている姿までは見えない。左右の端には舞台から繋がるかたちで椅子が等間隔で置かれて出番のない俳優/ダンサーたちの着替え/控えスペースになっている(これはIvHの標準)。

この舞台でSandra Hüllerの傍らにいるのはフランスのダンス・コレクティブ - (LA)HORDEで、LvHとPJHはSouthbank Centreでの彼らの公演を一緒に見て今回の共演をオファーしたそう。多い時で9人が舞台のあちこちを動きまわって絡みあって土まみれになる。

舞台の上部には横に長いディスプレイがあり、曲やシーンによっては演者が持つスマホやカメラの映像がライブで映し出される。その上には字幕用のスクリーンがふたつ - 左が英語用、右がドイツ語用。台詞がドイツ語だったら、の心配はいらなかった。PJHの曲を繋いで歌っていくだけなので、言葉は彼女の歌の詞のみ。

ポーズや区切りはないものの、全部で4 partに分かれていて、Part 1: Grow、Part 2: Love and Personal and Political Disappointments、Part 3: Big Exit、Part 4: Back Home - 1)なりあがって〜2)恋とか政治でごたごたいろいろあって〜3)とんずらして〜 4)おかえり、というかんじか。各partで5〜7曲、曲毎にダンスもディスプレイの映像もライティングも激しく変わっていく。

Sandra Hüllerは黒のパンツ以外のトップスはちょこちょこ変えて、ブラ一丁になったり、口紅も自分で塗ったりしているのだが、最後まで鼻の頭についた泥がとれていなくてかわいかった。

Sandra Hüllerは歌えるのか? についてはIvHもPJHもまったく心配していなくて、俳優としての彼女は自分のVoiceをもっている人だと自分も思うし、実際見事なものだった。金髪のざんばら髪で、ある時期のKim Gordonのようにも見えたが、ドスの効いた声もシャウトも堂々で、PJHの静かに内に向かって消えていくような曲は難しいかも、と思ったがそういう曲はリストにない。あるときはダンサーのひとりを娘のように抱き抱え、あるときはダンサーとべたべたに絡んで喧嘩・格闘したりその仲裁をしたり、1時間30分ノンストップ - ふつうのシンガーがライブで動く運動量の倍以上だったのでは。

Part 1の始まりが”Grow, Grow, Grow”、Part 1終わりの”Big Exit”から”Angelene” で始まるPart 2の”The Dancer” - “Meet Ze Monsta” - “Rub ‘til it Bleeds” “Rid of Me” “My Beautiful Leah”あたりのぐしゃぐしゃの展開〜居直り、その獰猛さが凄まじく、Part 3の入り口でディスプレイの画面がNew Yorkのそれ - “Stories from the City, Stories from the Sea” (2000)からの曲中心 - に変わり、舞台上の動きもやや穏やかになり、Part 4の“Desperate Kingdom of Love”ではディスプレイ上に現れたIsabelle Huppert - クレジットでは“Special appearance”となっていた - と同曲をデュエットする。Isabelleは「母親」という設定のようだが、彼女があの低い声で口ずさむように歌う”Desperate… “ - ものすごくよいったら。

現在の(過去も)PJHのライブで今回のようなグレーテスト・ヒッツぽいセットが組まれることはないので、これはこれで聴き応えあったのだが、それ故にタイトルも含めて考えさせられるところがいろいろあった。決して「総括」なんてところに向かわないのが彼女のよさでもあるし。そんな彼女に”I Want Absolute Beauty”と言わせようとしている勢力、のようななにかがある(という見方もできるか?)。

Land - 今回ではDorset, London, New Yorkなど、守り育ててくれる土地 - 反対に向こう側に抜ける・侵犯することを許さない土地の縛り・抑圧と、それを振り切って抜けようと、あなたに手を伸ばし支配しようとするDesireのせめぎ合い - ブルース - が彼女の曲の中心にあるテーマのひとつで、それがセット - 土、水、泥、煙、木、光なども含めて極めてわかりやすく示された舞台でもあった。 いちばんぐじゃぐじゃ混沌としている”Dry” (1992)からはひとつも選曲されていない - そういう分かりやすさこそが罠、という辺りも改めて。

終わった後のSandra Hüllerさんの笑顔がすばらしく輝いててよくてねえ(前から2列目だったのでしみた)


“Y” by Anne Teresa De Keersmaeker, Rosas

↑と同じ日の午後、これもRuhrtriennale Festivalの演目のひとつで、場所はEssenのMuseum Folkwang - ここは2017年 - Gerhard Richterの展覧会のときに来たことあった。

ここでこのパフォーマンスをやっているのを知ったのが来る前の日くらい、土日のチケットはとうにSold Outしてて、ばがばかばか、って。でも一応窓口に行ってみたらあなたラッキーね、と言われて入ることができた。14€。

マネの”Portrait of Faure as Hamlet” (1877) - シェイクスピアの「ハムレット」を演じるJean Baptiste Faureの像にインスパイアされて、役者が剣を構えて演じる姿から膨らませた”Why?” - タイトルの”Y”は”Why”の”Y”。もちろん答えなんてそこにはない。

土曜日の午後の会場にいたダンサー - 全員ギャラリーのところどころに散っていて誰かと組んで踊ることはない - は4人(女2男2)、9つくらいに仕切られたギャラリーにかけられたり置かれたりしていた絵画群は、マネの他には:

Mark Rothko, Barnett Newman, Paul Klee, Egon Schiele, Caspar David Friedrich, Carl Gustav Carus, Jean Renoir, Kathe Kollwitz, Josef Albers, Rineke Dijkstra, Max Ernst, Ulrike Rosenbach, Roni Horn など(他にもいっぱい)。 床にはダンサーたちの衣装がてきとーに放り投げてある(ダンサーは現れるとそこで着替える)。

マネの置いてある部屋でのパフォーマンスの他にも部屋にある絵画や彫刻や写真のテーマに応じたダンス - だけじゃなくて叫んだり怒鳴ったり喘いだりを含む - が複数用意されていて、どのダンサーもその部屋/絵画の(おそらく用意された)舞いをするのだが、我々客もランダムに移動していくのでその場の即興で作っていく部分も相当にあるような。

随分長いことAnne Teresa De Keersmaeker / Rosasの公演は見れていないのだが、わたしは彼女のコレオグラフが大好きなので、目の前でSynne Elve EnoksenやNina Godderisといったダンサーたちがソロのものすごい動きを見せてくれて、マネの絵のところでは、フェンシングの構えで客ひとりひとりに正面から迫ってくるので、ああこのまま刺して殺して、ってまじで思った。楽しくて1.5時間くらいそこにいた。

この日の午後から晩で今年後半のパフォーマンス運はぜんぶ使い切ってしまった気がする/した。

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