8.13.2024

[film] Janet Planet (2023)

7月30日、火曜日の晩、NYのCinema Villageで見ました。のだが、この時は後半ところどころで脳死して記憶がとんでいて、昨日(8/11)の午後にBarbican Cinemaで改めて見直した。こういうことはあんまりしないのだが、なにかが気になったのかも。

Cinema VillageはUnion Squareの近くの随分昔からあるシアター3つのぼろい2番館で、マンハッタンにある同様の小さい映画館がどんどん潰れて、ここのすぐ近所のRegalチェーンのシネコンも灯りが落ちたりしているなか、謎に生き延びている。おおむかし、Wilcoのドキュメンタリーとかを見たのはここだったなー。

作・監督はAnnie Baker – 劇作品の”The Flick” (2014)でピュリッツァー賞を受賞した彼女の監督デビュー作となる。
どうでもよいけど、彼女の夫はNico Baumbachで、Noah Baumbachの実弟で、彼の作品いくつかに出演している。

制作と配給はA24、あと制作にBBC Filmsも関わっている。

91年の夏、マサチューセッツの田舎で、コオロギが鳴く夏の晩、サマーキャンプに来ている11歳のLucy (Zoe Ziegler)はベッドを抜けだして公衆電話のところに向かって電話をしてここにいたら自殺するから出して、と静かに訴えてそこを出る。

彼女を迎えに来た母のJanet (Julianne Nicholson)は鍼治療師をしながらパートナーをちょこちょこ変えたりしているやや変わった人で、母の横にやってきた3人 - Wayne (Will Patton)、Regina (Sophie Okonedo)、Avi (Elias Koteas)、それぞれとの関わりの(昔から知っている仲のようなのでこの夏の)初めからその終わりまで、それを母娘で他人事のように眺めつつ過ぎていった夏の日々を描く。

世にあるComing-of-ageものとはちょっと風味が違って、父親的な何かは登場しないし、母も娘も誰ひとり学ばないし成長しない、そんなつもりは微塵もないからほっとけ、ふうに見えるのが心強くておもしろい。

Lucyは眼鏡をかけていて笑ったり泣いたり叫んだりしない。いつもほぼ不愛想で無表情で何かを考えているように見え、突然動けなくなったり吐いてしまったり。画面上に出ている時間はJanetよりも多いが、彼女の視線の先には常にJanetがいて、Lucyの行動に見えない制御や引力をかけたり影響を及ぼしたりしているのが惑星Janetの軌道で、たまに彼女の持っている関係について助言を求められたりもする(→Lucyは別れちゃえば、と返す)。 どうでもいいふうにピアノを習っていたり、あとは隠している小さな箱のなかにいろんな不揃いの、あんまかわいくない人形たちを並べてお供えをしたり。 監督自身が91年に11歳で離婚した母親とマサチューセッツの田舎で暮らしていた、そうなのでLucyの像ときたら揺るがなくて強い。彼女がすたすた歩いていくシーンを横から撮ったシーンだけで、とてもよいの。

最初のWayneはひどい頭痛持ちであまり喋らず - 彼が家にいることを知った時、これならキャンプで我慢すればよかった、と呟く - でも彼の(先妻の?)娘のSequoia(Edie Moon Kearns)とLucyは笑いながらショッピングモールを駆け回る - 映画で唯一子供「らしい」描写が見られるところ。 Lucyはこの後もSequoiaについて言及し、彼女に会いたい、彼女が好きなのかも、と言うがJanetからはほぼ相手にされない。そんなのふつうだ、くらいの。

Wayneと付きあった期間は、頭に字幕で”Wayne”と出て、関係が終わると”Wayne Ends”とでる。カルト劇団員から逸れてきたReginaも、その劇団のリーダーで教祖っぽく枯れたAviも同様で、でも彼らが何を求めてJanetのところにやってきて一緒にいようと思ったのか、その”Ends”のきっかけやそこに至る経緯や事件の描写はない。Lucyから見て、彼らは虫のように夜の闇に消えた、それだけのこと。自分がその気になれば誰でもいちころなのだ、とJanetは静かに語り、それが大人の関係というものなのか、それを持続させるために何が不足していたのか、等については触れられることなく、Lucyも聞いたりしない。別に関係の持続なんて誰も求めていなさそうだ – それはLucyとJanetのそれにもやがてやってくるのかも… くらい。

Janetはこれからもずっとこんなふうに暮らしていくのか、Lucyは「ちゃんとした」大人になれるのか、そんなの別にどうでもよいけど、少なくともこの夏はこんなふうでした、と。そのさばさばした切り取りがとても素敵ったらない。

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