8月6日、火曜日の晩、BFI Southbankで見ました。
UCLA Film & Television Archiveで4Kリストアされた版のUKプレミア。 NYのリンカーンセンターでも先の5月にリバイバルされている。日本公開はされていない模様。モノクロで一部カラーが入る。76分。
NYでAmos Vogelの主宰するCinema 16でRobert Frankの“The Sin of Jesus”(1962)と併映され、英国ではAndrei Tarkovskyの“My Name is Ivan” (1962)と併映された。監督のPeter Kassはこの後映画を撮ることはなく、上映前に配られた解説には、映画を作った時の彼の話が載っている(割とめちゃくちゃですごい)。
アメリカが広島に原爆を落としてから4年後(そしてこれを見た日はそこから丁度79年後)、Gaunt (John Heffernan)と名乗る白人男性がひとり、聖書をポケットに入れて山のなかを彷徨っている。男は憔悴したように見えて病的なふうで、なんか怪しいのだが途中で出くわした警察の尋問にもちゃんと答えている。
そこから少し離れた農家で、父にバカにされ虐待されている若い白人青年が、父の出て行ったあとに、洗濯ものを干していた黒人の家政婦をレイプして殺してしまう。
それを遠くで見ていた彼女の聾唖の息子Jesse (Barry Collins)が現場に近寄ってきて、Jesseを見て追っていたGauntも寄ってくるのだが、戻ってきた父親が息子をぶん殴ったあとで、罪をGauntにひっ被せて撃ち殺そうとしたので、GauntはJesseの手を引いて山中に逃げ出す。
警察が来て、父は白人の男と黒人の子供が逃げたことを告げて、山の中を逃げる二人とそれを追う警察の追跡劇になり、ふたりは途中で農家の納屋に隠れたりするのだが… (結末はものすごく暗い)
逃げていくGauntの脳裏には広島の町を一瞬で消し去った映像が去来し、アメリカ人として自身の負った罪と傲慢な白人親子のレイシズムと身勝手な仕打ち、それを受けて自分を殺しにくる警察などが対比され繋がって渦を巻いていく。なぜ、こんなことになってしまったのか、なにをすれば許され救われるのか、いろんな罪のありようを叩きつけてきて、これからどこに向かうのか、と。 American New Cinema前夜にはこんな内省の時があったのか。
映画は監督とカメラのEd Emshwillerのほぼふたりと俳優(プロの俳優は3人)だけ、ロングアイランドの奥地で1日5時間 x 12日で撮ったらしいが、シンプルながら重く、すばらしい。
Bigger Than Life (1956)
8月7日の晩、BFI Southbankで見ました。
BFIではずっと”Big Screen Classics”という所謂名画(いろんな名画あり)をスクリーンで見よう、という企画をやっていて、とても勉強になるのだが、そのシリーズでの1本。 イントロでプログラマーのGeoff Andrewさんが喋って、この人の解説ってわかりやすくて大好きだったのだが、今回ので彼は最後になるって。えーん。
監督はNicholas Ray(上映された日が誕生日)、邦題は『黒の報酬』 - クラシックなのに見たことなかった。原作はNew Yorker誌に載った記事"Ten Feet Tall”で、主演のJames Masonがプロデュースもしている。
学校教師のEd Avery (James Mason)は妻と息子と幸せに暮らしているのだが、裏ではタクシー会社で配車のバイトをしてがんばっていて、でも体の痛みが酷くなって失神し、医者によると不治の難病で治療は難しいがコルチゾンを投与すれば治るかも、というので同意して薬を飲み始めて、最初は快調で、やがて効かなくなった時の恐怖から多めに摂取をするようになると、彼の挙動がおかしくなって妻の買い物ではやたらでっかいことを言い、息子の教育には厳しくなって、やがてこいつはだめだから、って息子を殺してしまおうとする…
不治の病の薬を飲んだら自分が10フィートくらいの万能男に見えてきて、怖いものなしになって周囲を恐怖に陥れる、という恐怖。それは自身の停止~死の恐怖の裏返しで、それってアメリカのこんな市民社会がふつうに抱え込んでしまった病理そのものなのだ、と。 今のネットの広告を並べてみれば、或いはネットのインフルエンサーが言っていることなんて全部Ed Averyのそれみたいだし、最近はやりの高齢者は不要だからいなくなれ、もそうだし、というのを1956年の時点でこんなドラマに落としこんでいたのがすごい。それが教師と配車屋という職業に妻と息子という家庭役割のガチ典型の描写を通して、これは他でもない自分の話だ、となりそうなところのぎりぎりを刺してくるのがNicholas Rayだなー、って。
この延命と奉仕と自己犠牲を強いる勢力の不気味でわかんないこと、赤狩り以上だわ。
BFIについては、ずっと改装のため閉まっていた一番大きいシアター: NFT1がリオープンしてくれて嬉しい。会社の次に長く過ごしている場所なので快適であってくれないと。あとは上映前にかかるLloyds BankのCMだけだわ。以上、わかる人にしかわからない情報でしたー。
Taylor Swiftのチケットを取れないかやってみたのだが、リセールの一番安いのでステージ裏の£500くらいからなので諦めた。
8.17.2024
[film] Time of the Heathen (1961)
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