7月21日、日曜日の午後、Curzon BloomsburyのDocHouseで見ました。
ぜんぜん知らなかったのだが、Italian Doc Seasonというイタリアのドキュメンタリー映画特集を3日間ここでやっていて、この日は今年で3年目になるそれの最終日の最後の上映作品。
今年の2月に完成して直後にベルリンでプレミアされたそう。上映後に監督Costanza QuatriglioとのQ&Aがあった。 英語題は”The Secret Drawer”。
監督の実父でシチリアのジャーナリストで作家のGiuseppe Quatriglio(1922-2017)の姿を撮り始めたのが2010年、それを一旦短編として纏めた後も撮り続け、2017年に彼が亡くなった後も彼の書斎の本やフィルムやテープをシチリアの中央図書館に寄贈するためのお片付けと整理をしながら撮影は続けられていった。
約70年間、世界中を旅したジャーナリストだからこんなにいろいろ溜まっちゃいました、見て! ではなく、中からものすごいお宝や発見がでてきたよ、でもなく、父はなんであんな大量の紙とか本の山に埋もれてあの中でいったい何をしていたのだろう、という幼時の疑問から始まって、最初は老いた父の姿、書斎で働く姿をフィルムに残しておきたい、あたりから始まった撮影は、父の像と活動の周辺から彼がひとりで向かっていた紙や本の山の方へと向かい、それらをかき分けていく中で彼の最初の妻との手紙のやりとり、監督の母である次の妻との出会い、シチリアへの思い、娘である自分が生まれた時のこと、などが出てきて、更には手紙、メモ、原稿、8mmフィルム、数万枚に及ぶ写真ネガ、などなどの束から、50年代、パレルモからの特派員としてアメリカやヨーロッパを飛び回っていた彼の姿が現れる。 Carlo LeviやJean Paul Sartreといった知識人へのインタビュー、Cary Grant、地震や火山のレポート、60年代(?)の東京を写した8mm(これもっと見たい!)まで、その活動は目が回るくらいに全方位で、でもそれがジャーナリストとしての彼が目指した仕事だったのだ、と。
パブリックもプライベートも、太古の過去も現在もすべてがパレルモのこの机から広がって、人がある場所で、ある時間と歴史を捕獲するように記録してきた、それらのぜんぶが彼の書斎の箱や棚や引き出しに積まれたり並べられたりしている、そのありようの濃さと広がりに圧倒されていく彼女(監督)の語り口は、後半になってより深くアーカイブすることの意義とか大切さの方に話が移っていって、それよかもっといろんなの見せて! に少しなっていくのがやや残念なのだが、それでもだから人は紙束を溜めたり積んだりしてしまうのだし、それをアーカイブすることは必要なのだ、というのが正論というよりは実感レベルで伝わってくる。 溜めたり積んだり、その束にその人の生を吹きこんでいくような営みが、ある時点から逆転して、その紙束の山がその人の像を生かして膨らませていく方にひっくり返っていくような。
監督とのトークで、最初は撮られるのを嫌がっていた父が後半になるにつれて、より積極的に関わるようになり、彼女が撮る姿を眺めて撮影に参加したりするようになった、というあたりが興味深かった。 “The Secret Drawer” - 秘密の引き出しは、いつも必ずどこかにあって、引きだされるのを待っている。
こちらで暮らし始めてからレコードを買うのはほぼ諦めて、その熱がぜんぶ古本の方に向かっており、別の場所に引越しを考え始めて本棚はそれまで待とうと思っているのだが、すでに床がやばくなり始めている。どうするんだこれ... って、そういう状態に対して、もちろんなんのヘルプにもなりやしないのだった..
8.13.2024
[film] Il cassetto segreto (2024)
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