7月27日、土曜日の午後、”About Dry Grasses” (2023)の後にBFI Southbankで見ました。
A24配給で、作・監督はJane Schoenbrun、音楽はAlex G。主人公の父役でFred Durst。 ホラーっぽい扱いをされているが、ぜんぜんホラーには見えない。
1996年の、インターネットが出始めた頃のアメリカで、7grade (中2)のOwen(子供の頃はIan Foreman→Justice Smith)は不安にまみれたどうしようもない男子で、TVぐらいにしか興味をもてなくて、学校の隅で9grade (高1)のMaddy (Brigette Lundy-Paine)が床に転がって自分が好きなTV番組 “The Pink Opaque”の本を読んでいるのを見て、思いきって声を掛けてみる。
“The Pink Opaque”はIsabel (Helena Howard)とTara (Lindsey Jordan)の仲良し二人組が力をあわせて悪の首領Mr. Melancholyが送りこんでくる都会のモンスターたちと戦う、というもので、戦闘モードに入るとふたりの首のうしろには蛍光ピンクのタコマークが浮かびあがるの。
土曜日の深夜に”The Pink Opaque”を見ているというMaddyの家までOwenは家族にうそをついて見にいって、見た後に寝てしまって起きたら朝で、少しだけ成長した気分になるのだが、やがてOwenは病気だった母を失い、クイアで行き場のない(90年代だし)Maddyは家を出ることにしてOwenを誘うのだが、彼は思いきることができない。
“The Pink Opaque”の物語の詳細について詳しく語られることはなく、OwenとMaddyがその内容やキャラクターについてオタク的に議論を重ねることもない - そういうのが登場する前夜だし、あれこれ掘って検索できるほどインターネットは育っていなかった。ただ、このTVプログラムで描かれたすぐそこにある危機と何かにやられている感覚は、自分たちの日常よりも断然リアルで、そこに没入すればするほど、抜けられなくなっていくものだった。Owenの終始どんよりぼーっとした眼差しと、Maddyの全世界を敵に回す覚悟をした目の対照はなんだかとてもよくわかる。そしてなんの根拠があるわけでもないのだが、世界はもう終わってしまうのだ or 壊れてしまったのだ、という感覚が追ってきて、ここから8年後、“The Pink Opaque”の突然の終了とその悲惨な最終話をみて、Owenはブラウン管に頭を突っ込んで死にそうになる。
これだけならそんなこともあったね、のお話しなのだがこれだけでは終わらず、MaddyとOwenはそれぞれの道というのか末路というのか – Owenは魂の抜けた、体を壊した状態でだらだらと大規模スーパーかなんかの店員になってふつうの家庭を築いていたり - を辿りつつ終わって、今なら配信で全話見ることができる“The Pink Opaque”はかつてのバージョンから明らかに漂白されて改変されていたり、そういうのも含めて”I Saw the TV Glow”としか言いようがないことになっているのだが、呪いのTV(に食べられた)とか単純なものではなく、そこに抜けて行く夜道があって、彼らは癒しというよりもどこかにある傷とその修復を求めてそこに追いこまれるしかなくて、でもそこが棲み処だった、と。いまもどこかで。
ここから約10年前の設定だった“Donnie Darko” (2001)を少し思いだした。世界の終わりがセットされてしまった世界でどうやってやり過ごすのか。”I Saw..”の方がより閉塞してより切ないところで世界をどうにかしようとしている、というか。
主人公ふたりのぜんぜん噛み合わないやりとりも素敵で、「わたしは女の子が好きなんだ」というMaddyにおどおどしつつ「ぼくは.. TVが好きだ」って返すOwenとか。
ライブハウスのシーンでPhoebe Bridgersが、彼女のバンドと一緒にでてくる。
8.09.2024
[film] I Saw the TV Glow (2024)
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